2017/04/20

キャリアアップ助成金(処遇改善コース)について

1.はじめに

 前回は、「キャリアアップ助成金」のうち「正社員コース」をご紹介しました。今回は有期契約労働者または無期契約労働者に一定の取組みを行った場合に助成を受けることができる「 処遇改善コース 」についてご紹介させていただきます。

2.処遇改善コース

 前回ご紹介した通り、キャリアアップ助成金には以下の3つのコースがあります。

正社員化コース 有期契約労働者又は無期契約労働者を正規雇用労働者等に転換した場合等に助成
人材育成コース 有期契約労働者又は無期契約労働者に一般職業訓練等の訓練を実施した場合に助成
処遇改善コース 有期契約労働者又は無期契約労働者に基本給の賃金規定等を増額改定し、昇給した場合等に助成

 いずれのコースにおいても、取組みの計画を作成し管轄労働局に提出したのち、取組みの実施を行い、助成金の支給を申請するという手続きを経て助成が行われます。
処遇改善コースについては、もともと 非正規雇用者の処遇改善を検討していた事業主にとっては有用 な制度ですので、処遇改善の取組みをする場合には活用を視野に入れるべき制度であるといえます。

3.3つのパターンと助成額

今回ご紹介する処遇改善コースについては、大きく分けて「 賃金規定等改定 」「 共通処遇推進制度 」「 短時間労働者の労働時間延長 」の3つのパターンがあり、助成の対象となる取組みの内容及び助成額がそれぞれ異なります。

(1)賃金規定等改正

 有期契約労働者及び無期契約労働者の基本給の賃金規定等を 2%以上増額改定 した場合に、その対象となった労働者の人数に応じて助成を受けることができます。また、中小企業においては増額改定が3%以上で一定の要件を満たした場合、本来の助成額に一定額が加算されます。ただし、助成の対象となる人数や、申請の回数には限度があり、 1年度につき1事業所当たり100人まで、1回のみ の申請となっています。
 対象労働者の賃金規定等を改定した後その新たな賃金規定等に基づき6か月分の賃金を支給した日の翌日から2か月以内に助成金の支給申請をすることで助成金を受け取ることができます。

①すべての有期契約労働者及び無期契約労働者を対象とする場合の助成額

1人~3人 1事業所当たり10万円(7.5万円)
4人~6人 1事業所当たり20万円(15万円)
7人~10人 1事業所当たり30万円(20万円)
11人~100人 対象労働者1人当たり3万円(2万円)
※最大100人の場合、300万円(200万円)

※かっこ内の金額は大企業の場合の助成額を表します。

②一部の有期契約労働者及び無期契約労働者を対象とする場合の助成額

1人~3人 1事業所当たり5万円(3.5万円)
4人~6人 1事業所当たり10万円(7.5万円)
7人~10人 1事業所当たり15万円(10万円)
11人~100人 対象労働者1人当たり1.5万円(1万円)
※最大100人の場合、150万円(100万円)

※かっこ内の金額は大企業の場合の助成額を表します。

(2)共通処遇推進制度

 有期契約労働者及び無期契約労働者を対象として、 正規雇用労働者と共通の処遇制度を導入 し、実際に適用した場合に一定額の助成を受けることができます。対象となる処遇制度は「 健康診断制度 」と「 賃金規定等共通化 」があり、それぞれの助成額が異なります。

①健康診断制度
 有期契約労働者及び無期契約労働者を対象として「法定外の健康診断制度」を新たに規定し、延べ4人以上に実施した場合に、1事業所当たり40万円(大企業においては30万円)が助成されます。対象となる健康診断制度としては「 雇入時健康診断制度 」「 定期健康診断制度 」「 人間ドック制度 」があり、これらのうち いずれかを労働協約または就業規則に規定 する必要があります。申請の回数には限度があり、 1年度につき1回のみ の申請となっています。
 対象労働者4人以上に健康診断を実施した日の翌日から2か月以内に助成金の支給申請をすることで助成金を受け取ることができます。

②賃金規定等共通化
 有期契約労働者及び無期契約労働者に関して、 正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成 し、実際に適用した場合に、1事業所当たり60万円(大企業においては45万円)が助成されます。申請の回数には限度があり、1年度につき1回のみの申請となっています。
 対象労働者の賃金規定等を共通化し、当該賃金規定等の適用後、その新たな賃金規定等に基づき6ヶ月分の賃金を支給した日の翌日から2か月以内に助成金の支給申請をすることで助成金を受け取ることができます。

(賃金規定等の改定の方法)
 有期契約労働者等と正規雇用労働者について、等級などの区分をそれぞれ3区分以上設け、かつ有期契約労働者等と 正規雇用労働者に共通する区分を2区分以上 設けます。そのうえで、その同一区分における賃金の時間当たりの金額を正規雇用労働者の月給等を時給等に換算することで同等に設定し、運用します。加えて、各労働者の区分の決定の基準となる合理的な条件を労働協約または就業規則に明示する必要があります。

(3)短時間労働者の労働時間延長

 短時間労働者である有期契約労働者及び無期契約労働者について、週所定労働時間を 一定時間延長 し、かつ延長を実施した労働者に 新たに社会保険を適用 した場合に、その対象となった労働者の人数に応じて助成を受けることができます。延長する時間により要件と助成額が異なります。
 週所定労働時間を延長した後6か月分の賃金を支給した日の翌日から2か月以内に助成金の支給申請をすることで助成金を受け取ることができます。

①5時間以上の延長
 週所定労働時間を 5時間以上延長 し、かつ新たに社会保険を適用した場合に、対象労働者1人当たり20万円(大企業においては15万円)が助成されます。
 なお、この金額は平成32年3月31日までの間の暫定的なものであるため、注意が必要です。

②1時間以上5時間未満の延長
 前述した(1)「賃金規定等改定」を適用したうえで、対象労働者の 手取り収入額が減少しないように週所定労働時間を延長 し、かつ新たに社会保険を適用した場合に助成されます。手取り収入額が減少していないか否かの判断は、 賃金規定等の増額改定の割合 により行われます。延長時間により達成すべき増額改定の割合と助成額は以下のように異なります。

延長時間 増額改定の割合 助成額
1時間以上2時間未満 13%以上 1人当たり4万円(3万円)
2時間以上3時間未満 8%以上 1人当たり8万円(6万円)
3時間以上4時間未満 3%以上 1人当たり12万円(9万円)
4時間以上5時間未満 2%以上 1人当たり16万円(12万円)

※かっこ内の金額は大企業の場合の助成額を表します。

 ただし、助成の対象となる人数には限度があり、①、②合わせて1年度につき1事業所当たり15人までとなっています。

4.制度利用にあたり注意しておきたい点

この制度には、ここまで述べてきた以外にも細かな規定があり、適用を受けられなくなってしまわないよう注意が必要です。主な留意点としては、(1) キャリアアップ計画書の作成から助成金支給までの手順 、(2) 助成の対象となる労働者の要件 、(3) 改定事項・改定制度の継続 が挙げられます。

(1)支給までの手順

① 処遇改善の取組みを行う前に、 キャリアアップ管理者 を事業所ごとに配置します
 キャリアアップ計画書 を作成したのち、管轄労働局に提出し、 所轄労働局長の確認 を受けます。
③ キャリアアップ計画書に記載した期間内に 取組みを実施 します。
④ 一定期間の運用の後、 支給申請 をします。
 支給審査 の結果、支給決定を受け、助成金の支給を受けます。

(2)対象労働者

 有期契約労働者及び無期契約労働者であっても、以下のような従業員については本制度の 助成対象者として認められない 場合があります。

① 事業主または役員の3親等以内の 親族 である場合
② 支給申請日において事業主の都合により 離職 させられた場合
③ その他一定の場合

(3)制度の継続

 本制度の適用に伴い、改定した賃金規定等、新設した健康診断制度等は、助成金の 支給申請日において継続して運用 されている必要があります。すなわち、申請日までの間に改定した賃金規定等を減額改定または廃止した場合、及び健康診断制度等を廃止した場合には、助成を受けられないこととなります。

 これらの点を含むすべての要件を満たすことで、助成を受けることができます。本制度の利用にあたっては、事前の計画とシミュレーション、計画を実行するだけの時間的・経済的余裕を確保しておくことが大切です。

5.おわりに

 今回ご紹介した処遇改善コースは、有期契約労働者等の処遇改善をする際には大きな支えとなります。一方で、前回ご紹介した正社員コースに比べ、取組みそのものにかかるコストが高いため、助成金を得るために適用を受けようとすると実際にはコスト増となってしまう可能性が高くなります。また、制度の開始以降、助成金目当てに当該制度を利用するために、キャリアアップ計画書などの提出書類をずさんに作成する事業主が多く、審査の基準が厳しくなっているという実情もあります。
 利用にあたっては制度の趣旨や背景を理解したうえで、適切に活用することが大切です。

 執筆者 長谷川 祐哉
汐留パートナーズグループ
汐留パートナーズ税理士法人
代表社員 税理士 長谷川 祐哉

埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
企業会計を中心とする深い知識により、顧客との強固な関係を築くのに成功している。
グローバル企業や上場会社及び上場準備会社に関する税務を担当している。