2017/09/20

研究開発税制

1.はじめに

 提供する商品やサービスに付加価値を加え続けることは各企業の課題であり、その開発を積極的に行いつつも、その経済的な負担を減らすことは多くの企業の関心事になっています。そのような研究開発に係る費用の負担を軽減させる税制として、「研究開発税制」が挙げられます。この制度は平成29年に改正が行われ、「研究開発費」の範囲が拡張されたほか、一部の時限措置の有効期限の延長、適用要件の緩和など、事業者にとってより利用しやすく改変されました。

 今回は企業の成長、競争にとって有用な「 研究開発税制 」についてご紹介させていただきます。

2.研究開発税制とは

(1) 制度の概要

 研究開発税制は、わが国の成長力と国際競争力の強化を目的に、 青色申告書を提出する事業者 が試験研究費として支出した費用の一部を、その事業年度の 法人税額から控除 することを認める制度です。この制度は大きく分けて以下の三つの制度から成り、それぞれの制度により控除できる税額を合計し、 最大で法人税額の40%までを控除 することができます。

制度 内容 控除上限
総額型 試験研究費の総額の一部を控除 25%
(高水準型との選択適用で最大35%)
オープンイノベーション型 特別研究機関等、大学等などと合同で行う試験研究などに係る費用の一部控除 5%
高水準型
(平成30年度末まで)
売上高の10%相当額を超える部分の一部を控除 10%

(2)「研究開発費」の範囲

 この制度の対象となる「試験研究費」とは、製品の製造または技術の改良、考案もしくは発明を目的として支出される、原材料費、人件費、経費、他の研究機関への委託料などをいいます。ただし、試験研究に充てるために他の者から支払を受ける金額がある場合には、その金額を控除した金額が試験研究費の額となります。

 以前まで製造業の「モノ作り」に限定されていましたが、平成29年度の改正によりビッグデータ等を利用した一部の「 サービス 」に係るものが追加されました。対象となるサービスは以下の通りです。

分野 内容
自然災害予測サービス ドローンにより収集した画像データ・気象データ等を組み合わせて分析し、高精度かつリアルタイムに自然災害予測を行う
農業支援サービス センサーにより農作物や土壌のデータ・気象データ等を組み合わせて分析し、最適な農作業ができるよう支援情報を配信する
ヘルスケアサービス 各個人の健康状態のデータを分析し、その各個人に最適な運動・食生活の推奨や、病院受診勧奨を行う
観光サービス ドローンや人工衛星等により収集した気象データ・生態系データ等を組み合わせて分析し、発生頻度が低く、観光資源として付加価値の高い自然現象等の発生の予測を行う

 以前の制度では試験研究費として認められていなかったこれらのサービスの開発に係る費用を支出していた企業は、研究開発税制の検討を改めて行うことが大切です。

3.内容

 前述の通り、研究開発税制は三つの制度から成り、それぞれの制度に対象となる費用の範囲、控除の上限額、適用要件等が定められています。

(1) 総額型

①総額型

 その事業年度中に支出した 試験研究費の総額 に、一定の計算により算出した控除率を乗じた金額を法人税額から控除します。なお、この金額の計算上、控除額の計算の基礎となる試験研究費の額は、(2)オープンイノベーション型の控除対象となる「特別試験研究費」を除いた金額となります。

 試験研究費の総額に乗じる控除率は 最低で6%  最高で14% (平成30年度末まで。恒久的には最大10%)と定められており、各企業の試験研究費の支出状況に応じて異なる計算方法が規定されています。

増減試験研究費割合(※1) 控除率の計算方法
+5%超 9%+(増減試験研究費割合(※1)-5%)×0.3(最大14%)
-25%以上、+5%以下 9%-(5%-増減試験研究費割合(※1))×0.1
-25%未満 一律6%
比較試験研究費(※2)がゼロ 一律8. 5%

(※1)「(その事業年度の試験研究費-比較試験研究費(※2))÷比較試験研究費」により算出される割合

(※2)前3年以内に開始した各事業年度における試験研究費の額を平均した額

 これらの計算により算出された控除率をその事業年度の試験研究費の額に乗じて計算した金額を、 法人税額の25%相当額を上限として法人税額から控除 することができます。

 また、(3)高水準型との選択適用で、試験研究費割合(その事業年度の試験研究費の額÷当事業年度を含む直近4年間の売上高の平均額)が10%を超える場合には、一定の計算により 上限額を最大で10%上乗せ することができます。なお、この上乗せ措置は 平成30年度末まで の時限措置となっています。

②中小企業技術基盤強化税制

 中小企業(資本金が1億円以下の法人その他一定の法人)の場合は、上記①総額型に代えて中小企業技術基盤強化税制に基づく計算を行うことができます。控除額の計算の基礎となる試験研究費の範囲は変わりませんが、総額型よりも控除割合を高く計算することができ、 最低で12%  最大で17% (平成30年度末まで。恒久的には一律12%)と定められています。

増減試験研究費割合 控除率の計算方法
+5%超 12%+(増減試験研究費割合-5%)×0.3(最大17%)
+5%以下 一律12%

 控除の上限額は増加型と同様、その事業年度の法人税額の25%相当額となります。

 なお、増減試験研究費割合が5%超である場合には、 控除額の上限に10%を上乗せ することができるほか、5%以下であっても試験研究費割合が10%を超える場合には一定の計算により 上限額を最大で10%上乗せ することができます。なお、これら上乗せの規定および(3)高水準型は選択適用となり、 、平成30年度末まで の時限措置となっています。

(2)オープンイノベーション型

 国の特別研究機関や大学など特定の機関と共同で行った試験研究や、国の特別研究機関や大学等、中小企業者等へ委託して行う試験研究に係る費用などについて、それぞれの 特別試験研究費 につき以下のように定められた控除率を乗じて控除額を算出します。

研究開発の種類 支出の相手先 控除率
共同試験研究 国の特別研究機関等 30%
大学等
民間企業、民間研究所、公設試験研究所等 20%
技術研究組合
共同試験研究 国の特別研究機関等 30%
大学等
中小企業者 20%
公益法人、地方公共団体の機関など
知的財産権の使用料 中小企業者 20%

 上記の通り試験研究の種類と支出した相手先により、その試験研究費の額に30%または20%の控除率を乗じ、それらを合算した金額を、 法人税額の5%相当額を上限として法人税額から控除 することができます。

 この制度を利用するにあたっては、 契約書等に一定の事項を記載 すること、および支出の 相手先による認定・確認 等の手続きが必要となります。なお、平成29年度の改正により、この制度の対象となる費用の範囲の拡張、領収書との突合を求めないなどの手続きの簡略化など、事業者により有利な変更が加えられました。

(3)高水準型

 平成30年度末までの限定的な措置として、高水準型により算出される一定の控除額を上乗せすることが認められています。

 試験研究費割合が10%を超える場合、 平均売上金額の10%相当額を超えて支出した試験研究費 に一定の控除率を乗じて計算した金額を控除することができます。制度の性質上、試験研究費が平均売上金額の10%を超えない場合は適用することはできません。

 当該制度における控除率は、試験研究費割合から10%を控除した値に0.2を乗じて算出されます。試験研究費から平均売上金額の10%相当額を控除した金額にこの控除率を乗じ計算した金額を、 法人税額の10%相当額を上限として法人税額から控除する ことができます。

 なお、上記の①総額型における上乗せ措置との選択適用となっており、併せて適用することはできません。

4.おわりに

 今回は「研究開発税制」についてご紹介させて頂きました。この制度は以前から施行されていた制度ではありますが、商品やサービスの多様化、時代ごとの経済状況などに合わせて過去に幾度も改正されています。過去に検討し適用することができなかった制度であっても、改正によりある事業年度からは適用できるようになることがあるということを念頭に置いておくことは大切です。

 その時どきの経済状況や法律の改正に対して広くアンテナを張り、企業にとって常に有利な意思決定をしていくことが必要といえるでしょう。

 執筆者 長谷川 祐哉
汐留パートナーズグループ
汐留パートナーズ税理士法人
代表社員 税理士 長谷川 祐哉

埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
企業会計を中心とする深い知識により、顧客との強固な関係を築くのに成功している。
グローバル企業や上場会社及び上場準備会社に関する税務を担当している。