2017/10/20

小規模企業共済制度

1.はじめに

 中小企業の数は日本企業の数のうち99%を占めることから、この大部分を占める中小企業について、我が国では様々な優遇制度が設けられています。

 今回は、その中小企業全体のうち、取り分け87%を占める小規模企業や、小規模事業者に適用される 「小規模企業共済制度」 についてご紹介させていただきます。

2.小規模企業共済制度とは

(1) 制度の概要

 小規模事業共済制度とは、毎月掛け金を積み立てることにより、役員の退任、事業の廃業をした際に共済金を 一括受取 または 年金 として分割して受け取ることができる制度です。主に個人事業主や会社等の役員を対象としており、掛金月額は1千円から7万円までの範囲で選択できるため、個々人の実情に合わせて設定することができます。加えて、税制面においては、 掛金の全額が所得控除の対象 となります。

 この制度は、経営者のための退職金・年金ともいわれ、年金制度と併せることで、より 将来の生活の安定を確保 できるメリットがあります。

 また、一定の資格を有する方は、納付した掛金の範囲内で、担保・保証人を要することなく事業資金等の貸付制度を利用することも可能です。

 この「小規模企業共済制度」は、平成28年の改正後、年金の支払いが3か月に1度から2か月に1度への変更、一定事由について受け取れる共済金額が増加するなど、さらに活用しやすい制度となりました。

(2) 共済事由・受取金額

 「小規模企業共済制度」は、共済金を受けとることとなる共済事由により、名称・金額が異なります。

 代表的な例として、A共済事由およびB共済事由が挙げられ、その内容は以下の通りです。

A共済事由 B共済事由
個人事業主 ・個人事業の廃止
・個人事業主の死亡
・15年以上掛金を納付した65歳以上である場合
会社等役員 ・会社等の解散
(一定の自由を除く)
・会社等役員の疾病等、または65歳以上となったことによる退任
・死亡した場合
・15年以上掛金を納付した65歳以上である場合

掛金が月額1万円(年額12万円)の場合、これらの共済事由に該当した方が受け取る共済金は以下の金額となります

支払掛金合計額 共済金A 共済金B
5年 600,000円 621,400円 614,600円
10年 1,200,000円 1,290,600円 1,260,800円
15年 1,800,000円 2,011,000円 1,940,400円
20年 2,400,000円 2,786,400円 2,658,800円
30年 3,600,000円 4,348,000円 4,211,800円

※『小規模企業共済 制度のしおり』11頁記載の表より抜粋

 上記以外にも、法人成立した場合の準共済事由、解約した場合等の解約事由があります。

(3)加入資格

 「小規模企業共済制度」には、一定の加入資格が設けられています。

 業種・形態により異なりますが、主な対象は建設業、製造業、運輸業、不動産業、農業、サービス業(宿泊業、娯楽業に限る)等を営む、従業員が20人以下の個人事業主または会社の役員(※)の方となります。また、これらの個人事業主が営む事業の経営に携わる共同経営者の方も対象に含まれます。

  (※) 役員とは以下に該当する方をいいます(外国法人の役員を除く)

 ① 株式会社、有限会社の取締役または監査役

 ② 合名会社、合資会社、合同会社の業務執行社員の方(業務執行社員を定款で定めた場合、その定められた社員

 なお、以下の方は加入資格を満たせませんので、注意が必要です。

 ① 事業専従者として事業に従事している配偶者等である方(共同経営者に該当する場合は加入できます)。

 ② 商業登記簿に役員登記されていない会社等の役員とみなされる方

3.節税対策として

 「小規模企業共済制度」は、税制上、複数の優遇制度が設けられています。

(1) 掛金支払い時の取扱い

 所得税においては、 掛金支払額全額が所得控除の対象 となります(小規模企業共済等掛金控除)。掛金を月額1万円とすると、年額の支払額12万円が所得控除となり、 控除額に税率 (例:20%) を乗じた金額 、2万4千円分 が年間の所得税額から減額されます (復興特別所得税を除く)。これは、「小規模企業共済制度」と異なる「個人年金」の場合では別途最大4万円が所得控除(生命保険料控除)となるため、併せて使うことでより節税につながります、(個人年金の場合は、限度額がある代わりに、年金受取時に支払い保険料分が控除され、両者のバランスが考慮されています)。

 住民税においても、課税所得金額が減額されることにより、掛金支払額の 10%に相当する金額 1万2千円 が減額 されます。

 掛金の全額が所得控除されることによる 節税額 の一覧です。

課税所得
金額
加入前の税額 加入後の節税額
所得税 住民税 掛金月額
1万円
掛金月額
3万円
掛金月額
5万円
掛金月額
7万円
200万円 104,600円 205,000円 20,700円 56,900円 93,200円 129,400円
400万円 380,300円 405,000円 36,500円 109,500円 182,500円 241,300円
700万円 994,400円 705,000円 38,000円 111,000円 184,000円 257,100円

※『小規模企業共済 制度のしおり』21頁記載の表をもとに、参考値を追加したもの

(2) 共済金受取り時の取扱い

 一括して共済金の全額を受け取った場合は退職所得として退職所得控除額が、年金として分割して受け取った場合は雑所得の公的年金等として公的年金控除額が収入金額から控除されることとなります。そのため、 受取額のうち、控除額部分については税額が課されないこととなります。 

 また、退職所得となる一時金は、退職所得控除額として40万円に支払期間の年数を乗じた金額(20年目以降は800万円+70万円×(勤続年数-20年))の控除を受けられ、同額の掛金を積み立てる場合でも、早い時期から掛金を毎月少しずつ支払う方が一時金受取り時の控除額は大きくなり、より節税につながると言えるでしょう。

(3) 注意点

 共済金等の受取の際は所得税が源泉徴収されますので、掛金月額・契約期間によっては実際の手取り額が掛金合計額を下回る場合もあります。

 また、共済事由が生じる前に解約した場合、解約手当金として掛金合計額の80%~120%相当額の受け取ることができますが、 掛金の支払い期間が20年未満の場合は元本割れしてしまう 点に注意が必要です。

なお、掛金は共済契約者ご自身で支払うこととなるため、 事業上の損金または必要経費とすることはできない 点にご注意ください。

4.共済契約者貸付制度

 「小規模企業共済制度」には、貸付制度も設けられており、納付した掛金から算定した貸付限度額(掛金の約7割から9割)の範囲内で、事業資金等の貸付けが受けることができます。

 貸付制度には7種の貸付種類があり、このうち「一般貸付け」の資格は、貸付資格判定時(4月末日および10月末日)において以下の要件を満たしていることとなります。

 ・加入後、12か月以上の掛金を納付していること(前納掛金を除く)

 ・貸付納付月数に応じて算定される貸付限度額が、10万円以上に達していること

利率は年1.5%(掲載時点)で、 担保・保証人を必要としない ため、資金の確保が難しい小規模企業や、小規模事業者にとってビジネスチャンスを拡げるきっかけとしても有用でしょう。

「一般貸付け」以外には、「傷病災害時貸付け」、「廃業準備貸付け」等があり、これらは利率が0.9%(掲載時点)と、さらに有利となります。

4.おわりに

 今回は「小規模企業共済制度」についてご紹介させていただきました。この制度には今回ご紹介した以外にも細かな規定や手続きが多岐にわたり、制度の利用にあたってはそうした要件を満たすための事務作業等も考慮に入れて検討することが必要です。

 そ制度の発足は昭和40年と歴史のある制度ですが、時代の流れに沿って幾度も改正が重ねられ、使いやすい制度となりました。 ①20年以上の継続積立、②多額・短期間よりも少額・長期間の方が有利という2点をおさえれば、中小企業の方にとって有利な制度でしょう。

 また、中小機構のホームページに節税シミュレーションがありますので、具体的な数字の確認をすることもできます。

 今後、事業規模の拡大を見込んでいる企業であっても、加入時に要件を満たしていれば役員を退職する時まで継続して加入できますので、事業規模の小さい内に加入を検討することをお勧めいたします。

 「年金制度のみでは不安が残る」という事業主や役員の方々はこの制度を利用し、節税をしつつ、将来の生活の安定を確保することで、より今の仕事に集中・効率化が目指せるのではないでしょうか。

 執筆者 前川 研吾
汐留パートナーズグループ
汐留パートナーズ株式会社 代表取締役
公認会計士(日米)・税理士 前川 研吾

北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。
公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。
また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。
2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。
税理士としてグループの税務業務を統括する。