2017/12/20

中小企業退職金共済制度

1.はじめに

 前回は退職給付制度の概要についてご紹介いたしました。退職給付制度は従業員にとってはとても魅力的な制度ですが、企業にとっては負担となるケースが少なくありません。そのような負担を負うことが難しい中小企業を救済する制度として「中小企業退職金共済制度」(以下「中退共制度」)という制度があります。

 今回はこの中退共制度ついてご紹介いたします。

2.中退共制度の概要

(1) 制度の目的

 中退共制度とは、単独で退職金制度を設置することが困難である中小企業を助成する目的で制定された制度であり、昭和34年に設けられた制度です。退職金制度を設置することによる時間的負担・金額的負担を軽減し、かつ、優秀な人材を集めやすくなることによる、中小企業の振興と発展に寄与することを目的としています。

(2) 加入条件

 中退共制度に加入するためには、一定の条件を満たしている必要があります。制度を利用できる対象企業が定められているほか、加入後に従業員をこの制度に勧誘させる必要が生じます。

①対象企業

 この制度に加入することのできる企業は、以下のように業種ごとに定められています。従業員数または資本金・出資金額の要件のいずれかに該当する企業が加入できます。

製造業・建設業等 卸売業 サービス業 小売業
常用従業員数 300人以下 100人以下 100人以下 50人以下
資本金・出資金 3億円以下 1億円以下 5千万円以下 5千万円以下

 なお、加入後に従業員の増加等により中小企業者でなくなった場合、一定の要件を満たしていれば、確定拠出年金制度などを実施する他の退職金共済団体等に退職金相当額を引き継ぐことができます。

②全従業員の加入

 制度の利用にあたっては、原則として従業員の全員をこの制度に加入させなければなりません。月々の掛金について以下で詳しく取り上げますが、従業員の数だけ掛金を拠出することになりますので、従業員の数は資金繰りに深く影響します。

 ただし、期間を定めて雇用される者、試みの雇用期間中の者、短時間労働者、休職期間中の者等は加入させなくても良いこととなっています。

(3)制度の仕組み

①掛金の設定・拠出

 加入した企業は月額の掛金を選択することになります。金額は5千円から3万円の間で16種類設定されており、企業は従業員ごとに月々の掛金の金額を選択し、その全額を負担します。なお、一定の条件を満たす短時間労働者(一週間の所定労働時間が通常の従業員よりも短く、かつ30時間未満である従業員)に限り、特例掛金月額として2千円・3千円・4千円の掛金を選択することも可能です。

 また、新規に中退共制度に加入する企業には、加入後4ヶ月目から1年間、国からの助成を受けることができ、掛金の額が低くなります。月額の掛金の2分の1(5千円を上限)が助成され、短時間労働者の場合は、さらに上乗せされて助成されます。加えてもうひとつ助成制度があり1万8千円以下の掛金から増額する場合には、掛金の増額に対して、その月から1年間、増額分の3分の1が助成されます。上記ふたつの助成制度は併用することが可能であり、加入の手助けとなります。

②退職した際の手続き

 従業員が退職した際には、一定の手続きをとることで、退職者への退職金の支払いが行われます。従業員の退職が決定した際には、事業主は「被共済者退職届」に必要事項を記入・押印の上、中小企業退職金共済(以下「中退共」)本部に送付します。送付後に、中退共本部は退職する従業員の掛金振替を中止します。

 退職した従業員は、企業から「退職金共済手帳」という請求書を受け取り、それを中小企業退職金共済本部に提出することにより退職金が支給されます。

 上記のように、企業は中退共に対し掛金の拠出をするのみであり、退職金支給のための資金管理等は企業側で行う必要がありません。

3.加入によるメリットとデメリット

 どの制度にも言えることですが、加入することによるメリットはもちろん、デメリットもあります。双方のバランスを考慮し、自社にとってメリットが大きくなるのか、デメリットが大きく影響するのかを吟味したうえで加入を検討することが大切です。

 主なメリットとデメリットは、以下の通りです。

(1)メリット

①掛金が損金となる

 企業の支出する月額の掛金は、法人税法の規定により全額が損金に計上されることとなります。そのため、利益が出ている企業にとっては法人税額を減額できます。

②雇用状態が安定する

 中退共制度は国の中小企業対策の一環として設けられた制度であり、「中小企業退職金共済法」に基づいています。そのため、退職金が確実に支払われ、企業と従業員双方にとって安心して加入することができる制度だと考えられます。

 中退共制度により支給される退職金は「基本退職金」と「付加退職金」の合計額で支払われ、長期加入者ほど恩恵を受ける仕組みのため、長く安定して働けることにより多くの退職金が支給されることとなります。

③軽い負担で退職給制度を創設できる

 中退共制度は中退共本部から退職金が支給されるため、退職金の管理を会社自体がする必要がありません。そのため、企業内部に積立金を積み立てることも、退職時にまとまったお金を用意する必要もなく、企業にとっては負担が少なく退職金制度を導入することができます。

 また、福利厚生の面でもこの制度を利用することができます。中退共本部が提携しているホテル・施設を割引料金で利用できるサービスがあり、従業員の福利厚生まで手が回らない企業にとっては、このサービスを福利厚生の一環として利用することで負担の軽減に繋がります。

(2)デメリット

①定期的なキャッシュの流出を伴う

 中退共制度は、退職時に退職金を支給する必要はない代わりに、月額の掛金を支払います。毎月掛金を支払い、減額することが難しい中退共の掛金は、資金繰りの厳しい企業にとってリスクとなりかねません。長期的に掛金を拠出することを考慮し、そのうえで資金繰りが安定すると見込める場合でなければ、大きなリスクを負うこととなるでしょう。

②掛金の減額が困難

 掛金の額を減額するためには、従業員の同意又は厚生労働大臣の認定が必要となります。従業員からの同意は、将来の受取金額が減少することであるため、取り付けるのは難しく、厚生労働大臣の認定は、申請書を厚生労働省に提出し、その承認を受けなくてはなりません。両方に共通しているのは、減額がやむを得ないと認められる場合のみであり、最初の掛金の設定は慎重に行う必要があります。

③掛捨ての危険性

 中退共制度は、掛金の納付が1年未満の場合は退職金が支給されず、1年以上2年未満の場合は掛金の総額を下回る金額の支給となります。一度拠出した掛金は返還されることが一切ないため、早期退職した場合には拠出した金額に対して退職者が受ける恩恵が少なくなり、掛捨・掛損となってしまいます。

 加えて、懲戒解雇で退職した従業員にも退職金が支給されることとなります。この場合、退職者に支給する退職金を減額させることが可能ではありますが、掛金の減額と同様に厚生労働大臣の認定が必要となるうえに、その金額をゼロにすることはできず、減額分も企業に返還されることはありません。

4.おわりに

 今回は中退共制度をご紹介致しました。中退共制度は、国による中小企業の援助のための制度であり、退職給付制度を導入して従業員の長期労働に繋げたいという企業にとっては、非常に有用であるといえます。

 しかし、退職給付制度は簡単に廃止することが出来ないものであり、中退共制度でも掛金の減額は困難という点を考慮しても、導入は慎重に行うべきということは間違いないでしょう。

 制度導入の検討にあたっては、そのメリットとデメリットを十分に比較したうえで、企業に有利な判断をしていくことが大切です。

 執筆者 前川 研吾
汐留パートナーズグループ
汐留パートナーズ株式会社 代表取締役
公認会計士(日米)・税理士 前川 研吾

北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。
公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。
また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。
2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。
税理士としてグループの税務業務を統括する。