2017/02/14 セミナーレポート

長時間労働を抑制する改正労働基準法の概要

 目次 

1. 中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し
2. 著しい長時間労働に対する助言指導を強化するための規定の新設
3. 一定日数の年次有給休暇の確実な取得
4. 企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組促進
5. フレックスタイム制の見直し
6. 企画業務型裁量労働制の見直し
7. 特定高度専門業務・成果型労働制の創設(高度プロフェッショナル制度)
8. 労基法改正に向けて
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社会保険労務士法人 和
代表社会保険労務士
岡野恵美子氏

 本セミナーでは社会保険労務士の岡野氏をお迎えし、中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金、一定日数の年次有給休暇の確実な取得など、2017年に改正が予定される労働基準法に関する最新の情報を詳しくご紹介いただきました。

中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し

割増賃金の計算方法(現状)

 現行では時間外労働は25%増し、休日労働は35%増し、深夜業では25%増しとなっています。
時間外労働と深夜業が重複すると50%増し、休日労働と深夜業が重複すると60%増しということです。

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改正後:割増賃金率比較

 改正後は、月45時間までの時間外労働は今までと同じ25%のままで、45時間から60時間までの間は25%以上となります。“ 25%以上 ”ですから25%でも構いません。
ところが60時間を超えた分の時間外労働は50%増しになります。
残業時間と深夜業が重複すると75%増しになります。

 すでに大企業ではこのとおりになっていますが、中小企業については猶予されていました。
平成22年改正当時には3年を目処にといわれてたものが、実際はもう7年経過しており、いよいよ猶予がなくなります。

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代替休暇制度とは?

 この改正で、60時間超の残業の50%割増し部分を代替休暇に当てることができます。
60時間を超えた部分は60時間までと同じ25%増の賃金を払い、25%から50%までの差額部分を有給休暇に割り振るというものです。
この代替休暇制度を導入するには労使協定が必要です。この制度は義務ではありません。
導入しなくても構いませんし、導入しても制度を利用するかどうかは個人の自由です。
労使協定の中で定めないといけない事項も4つ決められています。

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代替休暇の時間数の算定方法

 60時間を超えた25%以上50%までの割増率を有給休暇に換算する方法は、まず1ヶ月の時間外労働時間数から50%増しにする必要のない60時間を差し引きます。
差し引いた時間に換算率をかけますが、換算率は、代替休暇を取得しなかった場合に支払うとされている割増賃金率である50%以上の割増率から、代替休暇を取得した場合に支払うとされている割増賃金率の25%以上の割増率を引きます。
つまり60時間までの割増率と60時間超の割増率の差額が換算率となり、これを60時間超の時間外労働時間にかけます。

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「割増賃金の見直し」による実務への影響

 この改正に対する実務への影響として、60時間を超える残業が相当程度発生している企業では、人件費が増加します。
もし代替休暇制度を導入するのであれば労使協定が必要ですので、導入を検討するという実務が必要になってきます。
割増率が変わりますので、賃金規定を書き換えないといけませんし、給与計算の方法も変更しなければなりません。給与計算ソフトの設定を変える必要などもあります。
また、月60時間を超える場合に定額残業制を導入している会社については、その定額残業代の金額の見直し、または金額に対する時間数の見直しが必要になります。

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著しい長時間労働に対する助言指導を強化するための規定の新設

条文の改定案

 2つ目は「著しい長時間労働に対する助言指導を強化するための規定の新設」です。
労働基準法第36条、いわゆる36(サブロク)協定に関する条文の一部が改正されます。
36条は1項から3項までありますが、36協定を定めた第1項に変更はありません。
第2項の「労働者の福祉…その他の事情を考慮して」の部分が「労働者の健康」と改正されます。3項は変更ありません。

 そして第36条に第4項「前項の助言および指導を行うにあたっては、労働者の健康が確保されるように特に配慮しなければならない」という条文が新設されました。これは特別条項を指しています。

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「著しい長時間労働に対する助言指導を強化するための規定の新設」による実務への影響

 この36条の改正の実務への影響としては、まず特別条項付36協定の様式が変更されています。
特別条項は、臨時的業務をするから残業時間の枠を超えて年6回だけ働きたいと申し出るものでした。
その特別条項のなかに健康確保措置を明示しなければいけなくなったため、書き方の様式が変わります。

 その健康確保措置は、体制整備、実施状況に関する書類作成、保存義務ということで、例えば、当日と翌日の休憩時間を長くするインターバル制があり、欧州では必ず11時間空けるように決まっていますが、そのような制度を採用したり、医師との面談を行うといった健康確保措置が、おそらく労働安全衛生法を絡めて強化された形でガイドラインが出てくると思います。

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一定日数の年次有給休暇の確実な取得

年次有給休暇の取得義務化

 3つ目が「一定日数の年次有給休暇の確実な取得」です。
「年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者について、年5日間の有給休暇を取得させなければならない」。
一般に社員が入社すると半年で有給休暇が10日発生しますから、入社後半年で全員が対象になります。
これを守らないと30万円以下の罰則規定があります。

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 取得方法は3つあります。
1つが労働者本人の時季指定による取得です。
常日ごろ本人の意思でだいたい1年間に5日取る人はクリアしています。
2つ目が労使協定締結による計画的付与です。
みんなで有給休暇を使って休むということです。
計画的付与ですでに5日使っているところはクリアしたとみなします。
3つ目が、労働者本人の希望を聞いた上での使用者による時季指定です。
本人の希望を聞いて相談の上で決めるやり方です。
「時季指定」というのは時と季節ですから、何月何日というピンポイントではありません。
この辺りという感じで意見を聞いて、本人の希望を優先して決めます。

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「一定日数の年次有給休暇の確実な取得」による実務への影響

 実務への影響としては、すでに計画年休を5日以上取っている企業以外は、従業員ごとに有休消化計画表を作成せざるを得ないと思います。
みなさんが休みますから、今まで以上に有給休暇の申請と承認の処理をきちんとしておかないといけません。
有休を消化できているか、総務や上長による有休消化状況の閲覧が必要です。
また、年休消化日が5日未満の従業員への通知・取得促進をしてあげないとなかなか進まないと思います。
有休の管理簿を作成する必要があり、管理簿は3年間確実に保存しないといけません。

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企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組促進

各企業の自主的取組みを促進するために

 4つ目が「企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組促進」です。
「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」の改正に関するもので、内容はほとんど努力義務です。
努力義務の中に「労働時間等設定改善企業委員会」の設置があり、その委員会によって代替休暇、年休の時間単位取得、年休の計画的付与の決議があれば、労使協定を結ばすにこれを実行することができます。

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労働時間等設定改善企業委員会とは?

 労働時間等設定改善企業委員会は、労働時間等設定改善のための施策に関して労使協議を行う委員会です。
委員は会社と従業員から選びます。36協定の従業員代表もそうですが、労働者側メンバーは従業員から自主的に選定した人でないといけません。

 労使協定に代えて、委員の5分の4以上の多数の議決により、変形労働時間制や時間外および休日の労働について決議を行い、実施することができます。
ただ36協定に関しては別途結ばなければなりません。代えられるのは先ほどの3つだけです。

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「企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組促進」による実務への影響

 この改正による実務への影響としては、労使協定は事業場ごとに締結して提出しなければなりませんが、1つの委員会の決議によって先ほどの3つに関する決定が可能になりますので、使い勝手が良くなったといえるかもしれません。

 一方、今までは一定の要件を満たして衛生委員会を立ち上げていれば、それを労働時間等設定改善委員会とみなすことができましたが、その規定がなくなりました。
衛生委員会で代用していた会社は、新たに委員会を設置するかどうかを検討する必要があります。
これは努力義務ですから、設置するかどうか考えていただきたいということです。

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フレックスタイム制の見直し

「フレックスタイム制の見直し」の改正ポイント

 5つ目が「フレックスタイム制の見直し」です。
フレックスタイム制というのは労働者が出退勤の時間を自分で決めるものですが、1日8時間、1週40時間の規制が外れるわけではありません。
1ヶ月最大40時間を超える場合は時間外労働を支払う義務があります。
今回その中身について改正ポイントが3つ示されました。

 まず清算期間の上限が、現行1ヶ月のものが3ヶ月になります。
ただしこれだけだと、ある1ヶ月は鬼のように働いて、残りの2ヶ月はゆっくりすることになります。
そこで、清算期間が1ヶ月を超え3ヶ月以内の場合、1ヶ月ごとに週50時間超の部分は割増賃金の対象とすることになりました。

 2つ目が完全週休2日制の下では法定労働時間の計算方法が変わります。
曜日のめぐりによっては法定労働時間の総枠を超えることがあるので、法定労働時間の総枠については、労使協定の締結によって所定労働日数×8時間とすることが可能になります。

 3つ目はフレックスタイム制の主旨を徹底するということで、フレックスタイム制を導入していても、会社から指図が入ることがあるので徹底してくださいということです。

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「フレックスタイム制の見直し」による実務への影響

 フレックスタイム制の見直しの実務への影響としては、清算期間が1ヶ月から3ヶ月幅広くなったことで使い勝手は良くなると思います。
その反面、週50時間を超えると割増賃金が増えますので、きちんと労働時間管理をしないといけません。
また、労基署への労使協定の届出が必要です。

 また、3ヶ月と幅を持たせて管理することから、従業員の方々へ各月の労働時間数を通知しないといけません。
実務的負担が増加することになります。
さらに、偽フレックスタイム制になっていないか注意をしてくださいということなので、それも実務への影響になると思います。

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企画業務型裁量労働制の見直し

「企画業務型裁量労働制の見直し」の改正ポイント

 6つ目が「企画業務型裁量労働制の見直し」です。
これは企画・立案・調査などについてはみなし労働制を認めるということでした。
改正ポイントは3つあります。
対象業務が広がり、手続が簡単になります。
フレックスタイム制と同様に、裁量労働制の本旨の徹底ということが入っています。

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1-1 対象業務

 対象業務の拡大は2つあります。
現行の「事業の運営に関する事項についての企画・立案・調査および分析の業務」の「分析の業務」部分に追加があり、「分析を行い、その成果を活用して裁量的にPDCAを回す業務」となっています。
例として「品質管理の計画を企画・立案し、繰り返し分析を行う品質管理担当者など」が掲げてあります。
もう1つが「課題解決型提案営業」です。
例として「取引先企業のニーズを聴取し、社内で新商品開発の企画・立案を行い、当該ニーズに応じた課題解決型商品を開発あるいは販売する業法」とあります。

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1-2 健康福祉確保措置

 この制度を導入する場合、健康福祉確保措置を追加で講じないといけません。
現行の指針は「代償休日または特別な休暇の付与、健康診断の実施、連続した年次有給休暇の取得促進、心とからだの健康窓口の設置、配置転換、産業医の助言指導に基づく保健指導」ですが、加えて「深夜業の回数の制限、勤務間インターバル、一定期間における労働時間の上限の設定等」が追加されています。

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2 手続きの簡素化

 手続の簡素化として、今までは事業場ごとに提出が必要だった届出が本社一括で可能になりました。
あとは健康福祉確保措置を実施し、実施6ヶ月後に定期報告をして保存することが決まっています。

3 裁量労働制の本旨の徹底

 本旨の徹底としては、これも偽裁量労働制がないかということです。
NGの例として、始業・終業時刻について目安を示す、勤怠管理をする、所定労働時間相当働いたとしても明らかに処理できない分量の業務を与えながら相応の処遇の担保策を講じない、ということが挙げられています。

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「企画業務型裁量労働制の見直し」による実務への影響

 この見直しに伴う実務への影響としては、対象業務が増えたので利用する企業が増加するかもしれません。
労使委員会の決議が労使協定締結の代替として認められ、本社一括の届出で可能になる点は負担軽減につながります。
ただし「偽裁量労働制」になっていないか、くれぐれも注意してくださいと言っています。

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特定高度専門業務・成果型労働制の創設(高度プロフェッショナル制度)

「特定高度専門業務・成果型労働制の創設(高度プロフェッショナル制度)」の改正ポイント

 7つ目、改正事項の最後は「特定高度専門業務・成果型労働制の創設」です。
「一定の要件の下で対象業務に就く対象労働者については、労働時間、休憩、休日、深夜の割増賃金の規定が適用されない」というものです。
以下、「高度プロフェッショナル制度」と略してお話しします。

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1.対象業務

 対象業務は、「高度の専門的知識、技術又は経験を要する」とありますが、例として「金融商品の開発業務」「金融商品のディーリング業務」「アナリストの業務」「コンサルタントの業務」「研究開発業」が挙げられています。

2.対象労働者

 対象者は「1年間に支払われることが確実に見込まれる賃金の額が、平均給与額の3倍以上を相当程度上回る」で、目安が「少なくとも年収1,000万円以上」と定義しています。

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3.長時間労働を防止するための措置

 そして、高度プロフェッショナル専門業務に従事する労働者に対して、長時間労働を防止する措置を採らなければなりません。
そういう人たちですから時間なんて気にせずにがむしゃらに働いていると思いますので、3つの観点から健康に留意してくださいと挙げられています。

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3-① 健康管理時間の把握

 1つが健康管理時間の把握。健康管理時間は「事業場内に所在していた時間」と「事業場外で業務に従事した場合における労働時間」の合計時間です。
この健康管理時間に基づいて健康や福祉の確保を措置しないといけないということで、

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3-② 健康管理時間に基づく健康・福祉確保措置

 資料にあるa、b、cのいずれか1つの措置が必要としています。

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3-③ 面接指導の強化

 また医師による面接指導が強化されます。
健康管理時間から1週当たり40時間を引いた月の合計時間が100時間を超えると医師の面接指導が義務化されます。
月合計が100時間以下であっても本人からの申し出があった場合は努力義務になっています。

4.対象労働者の同意

 高度プロフェッショナル制は対象労働者の同意が必要です。
労働者ごとに、職務の内容、制度の適用について同意が必要で、希望しない労働者にこの制度は適用されませんので注意してください。

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5.労使委員会の決議および届出

 最後が労使委員会の決議および届出について。この制度を導入するのであれば、資料にあるa~fまでを労使委員会で決議して、行政官庁に届けることとなっています。

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「特定高度専門業務・成果型労働制の創設(高度プロフェッショナル制度)」による実務への影響

この制度を導入する場合の実務への影響ですが、まず導入は大企業、それも一部に限られるかと思います。
「成果型労働」の実現ではありますが、相反して健康管理時間の把握や健康確保措置などの配慮・適切な管理が求められます。

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労基法改正に向けて

企業の大小にかかわらず「意識改革」「働き方改革」が必要

 改正される7つの概要についてお話してきました。
施行期日はまだ決まっていませんが、平成31年の4月だろうと言われています。
この改正は何よりも長時間労働を抑制するための内容になっています。
労働時間はそもそもどういう時間を指すのか、改めて理解・整理しておく必要があります。
それから取得率が低い年次有給休暇の取得促進をどう進めるかが課題になると思います。
60時間超の割増率50%の適用拡大についても、今後人材不足も相まって長時間労働の見直しが不可欠の時代に突入していきますので、このあたりを踏まえて意識改革・働き方改革が必要になってくるということです。

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