2017/05/16 セミナーレポート

IoTで変わるものづくりの現場

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株式会社エクス
代表取締役社長
抱 厚志氏

必ず到来する第4次産業革命

 センサー技術やコンピューティング能力の発達で、あらゆるものにセンサーを張り巡らせて膨大な量のデータを取得し、それをリアルタイムで解析することが可能となりつつある。
エクスの抱厚志代表取締役社長は、そうした現状を踏まえ、「すべての製造業はIoT、IoSを前提にした製品づくりに取り組む必要がある」と断言。
IoTを利用した全員参加のものづくり経営を実現することで、競争優位を生み出せると語った。

 目次 

1. ものづくりが直面している課題
 -48時間ごとに情報が爆発的に増大
 -IoTの進化で、世界のものづくりは大きく変わりつつある
 -モノとモノがつながる「トリリオンセンサー社会」がやってくる
 -IoTやビッグデータによる新たなビジネスサイクルの出現
 -インダストリー4.0は第1~3次産業革命を継ぐ第4次産業革命
 -情報と機能の2方向から見たインダストリー4.0の基本構造
 -なぜドイツは国家をあげてインダストリー4.0に取り組んでいるか
 -インダストリー4.0によって何が実現するか
 -インダストリー4.0とインダストリアル・インターネットの違い
 -広義の生産管理システムは工場の生産性を最適化するための工場全体の仕組み
 -タームとスピードの異なるPDCAが両輪で回る

2. 次世代ものづくり経営に求められるもの
 -調達、生産、流通、販売のサプライチェーン全体を最適化
 -IoTを前提とした組織力の再強化が必要
 -すべてにおいて標準化を推進し、多能工化を進める
 -見える化サイクルを短縮し、IoTを利用して無形資産の見える化を
 -現場の改善活動をIoTによって見直す
 -IoTを前提とした競争戦略の明確化を図り、コア・コンピタンスを確立
 -ものづくりの技術だけではなく、IT技術、データ分析の感性を持った人材を育成
 -IoTを利用した全員参加のものづくり戦略の実現が必要

ものづくりが直面している課題

48時間ごとに情報が爆発的に増大

 Googleのエリック・シュミットによると、人類が文字を使い始めて以来、2010年に至るまでの文字記録を合計すると、おおよそ5エクサバイトになります。1エクサバイトは、だいたいCD15億枚分ですから、CD75億枚分ぐらい文字として残っていることになります。

 現在では48時間ごとに5エクサバイト、数千年かけて蓄積してきた量と同じ量のデータが生成されています。メールやSNSでコピーされたり、転送されたり、タグづけされたりして48時間ごとに情報が爆発的に増大している。すべてのものがインターネットにつながれば、さらに加速することは間違いありません。

 1秒間に送られるメールの数は世界で290万通。モバイルのインターネットユーザーが送受信するデータ量は1日1エクサバイトに達します。昔は情報を得ることに大きな価値がありましたが、今やスクリーニングしてクレンジングして本当に必要なデータを見つける知識・技術が必要になってきました。

 新たな技術革新の筆頭はロボットです。日本では2015年までに平均して一家に1台のロボットが導入されました。AI、IoT、ロボットの普及で、それらが人間の知能を超えるシンギュラリティー(技術的特異点)が現実のものになってきました。AI+ロボットの進化によって、人間が機械に仕事を奪われるのではないかといわれています。

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メガトレンドが指し示すもの(講演資料:IoTで変わるものづくりの現場より)

IoTの進化で、世界のものづくりは大きく変わりつつある

 ビッグデータ時代の到来で世界のものづくりは大きく変わりつつあります。キーワードを整理すると、まずIoT(Internet of Things)。インターネットが、いろいろなモノにつながっていくことです。米国では今やIoET(Internet of Everythings)、すべてのものがインターネットにつながること、IoS(Internet of Service)、サービスは、すべてネットを通して提供されていくことが議論されています。

 そのほか、ビッグデータ、3Dプリンター、AI(人工知能)、GPS(Cyber-Physical Systems)、インダストリー4.0、インダストリアル・インターネットなどのキーワードが挙げられます。AIが囲碁の世界チャンピオンに勝ちました。囲碁の打つ手の組み合わせは10の300乗から360乗程度です。人間が定義している一番大きな数字は無量大数。一般的には10の68乗を指します。人間が定義できるはるか外側にAIの演算能力は達しているわけです。

 GEのCEOであるジェフ・イメルトは「ハードウェアだけで競争に勝てる時代は終わった。ハードウェアは同じままで、ソフトを使ってハードウェアの能力を引き出して、顧客にとって価値のあることを最大化することができる」と述べました。パソコンは、その代表ですし、テスラのクルマもそうですね。購入後もソフトをアップグレードすれば機能が強化されていきます。

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第4次産業革命を推進するキーワード(講演資料:IoTで変わるものづくりの現場より)

モノとモノがつながる「トリリオンセンサー社会」がやってくる

 モノにはセンサーがつけられ、データを集めます。センサーはIoTを支える基本要素。2007年、世界中で1,000万個程度製造されていました。その後、年間220%の伸びを示し、2012年には年間35億個になりました。このペースで増えていくと、2020~2023年には年間1兆個を超えるでしょう。3年で3兆個。モノとモノがつながるトリリオンセンサー社会」がやってきます。

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モノとモノがつながるトリリオンセンサー社会(講演資料:IoTで変わるものづくりの現場より)

IoTやビッグデータによる新たなビジネスサイクルの出現

 GPS、サイバー・フィジカル・システムとは現実の世界の制御できる対象に関するデータを数値化し、クラウド上で分析することで、新たな知見を引き出そうとするものです。スマートフォンはもちろん、スマートメーター、バイタルセンサー、工場の設備、人感センサー、熱センサーなど、さまざまなデバイスがインターネットにつながり、データを収集しています。データはサイバーの世界のクラウドにどんどんあげられ、解析されます。データに価値が付加されると情報になります。

 データに意味を持たせて情報に変えて、情報を分析して知識に変え、現場に落とす。その結果を、ふたたび収集しフィードバックしていく。こうしたサイクルを回し、社会を進化させていこうという試みです。

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IoTやビッグデータによる新たなビジネスサイクルの出現(講演資料:IoTで変わるものづくりの現場より)

インダストリー4.0は第1~3次産業革命を継ぐ第4次産業革命

 インダストリー4.0は第4次産業革命のことです。蒸気機関の発明で始まった第1次産業革命、マスプロダクションが潮流となった第2次産業革命、コンピューターによる自動化が進んだ第3次産業革命を継ぐもので、IoTを利用して生産工程のデジタル化、自動化、バーチャル化の3つを強力に進めていこうとするものです。

 もちろん、1社では実現できません。材料の調達から始まるバリューチェーン全体をネットワーク化し、コストの最小化・バリューチェーンの最適化を実現します。

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インダストリー4.0(Industry4.0)とは(講演資料:IoTで変わるものづくりの現場より)

情報と機能の2方向から見たインダストリー4.0の基本構造

 情報の観点からインダストリー4.0の基本構造を示すと、ビッグデータやクラウド・コンピューティング、GPS、ロボットとの協働、拡張現実(augmented reality)などが、からみあっているイメージです。

 機能の観点からインダストリー4.0を見ると、受注からマーケティング、製造、営業、アフターサービスに至るまでの立体型のモデルをイメージできます。

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Industry4.0の基本構造(講演資料:IoTで変わるものづくりの現場より)

なぜドイツは国家をあげてインダストリー4.0に取り組んでいるか

 ドイツはインダストリー4.0に国家をあげて取り組んでいます。ドイツが国内に製造拠点を維持し続けるためには不断の技術革新が必要だからです。世界の先進国の中で、GDPの20%以上を製造業が占めている国は日本とドイツだけです。

 しかもドイツには中小企業が多い。日本は42万社の製造業のうち99.14%は中小企業庁の定義でいう中小企業です。ドイツも、ほぼ99%が中小企業。新しい技術を、どんどん取り入れていかないと中小企業が立ち行きません。

 いちはやくインダストリー4.0を実現することで、この分野でのデファクトスタンダードを確立したいというねらいもあります。

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ドイツがインダストリー4.0に取り組む理由とそのインパクト(講演資料:IoTで変わるものづくりの現場より)

インダストリー4.0によって何が実現するか

 インダストリー4.0は「連結化」「自律化」「多様化」「最適化」をキーワードに、次のような成果の実現に寄与します。

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Industry4.0実現で予想される効果(講演資料:IoTで変わるものづくりの現場より)

インダストリー4.0とインダストリアル・インターネットの違い

 ドイツでインダストリー4.0への取り組みを開始した翌年、米国ではインダストリアル・インターネットへの取り組みが始まりました。双方とも世界的な企業が参加しており、近年ではインダストリー4.0を構成するシーメンスやボッシュなどドイツの有力企業がインダストリアル・インターネットへも参加しました。

 インダストリー4.0が製造業に限られるのに対し、インダストリアル・インターネットは、交通、エネルギー、環境、医療分野も射程に入れています。

 日本はどうするか。選択肢は3つで、ひとつはドイツ、米国の傘に入る、ふたつは日本版インダストリー4.0を立ち上げる、みっつは自前主義を貫く、です。

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Industry4.0とIndustrial Internetの範囲(講演資料:IoTで変わるものづくりの現場より)

広義の生産管理システムは工場の生産性を最適化するための工場全体の仕組み

 広い意味での生産管理システムは工場の生産性を最適化するための工場全体の仕組みのことをいいます。IT化だけを指しているわけではありません。狭い意味では、ものごとの判断基準や処理ルールの再構築を指します。コンピューターのシステム構築のことでもない。

 仕組みを改める方法としては範囲や期間によって、革命、改革、改善の3種類があります。生産管理システムは改善のためのシステムで、使いようによっては改革にも力を発揮します。改善を進めるための盲点があります。それは皆さんが平素口にされる「基本」という言葉です。

 生産管理システムを刷新・導入する際は今まで基本と思っていたものを科学的・デジタル的に洗い直します。それが非常に価値がある。現象ではなくて、原因に深く入っていくのがデジタルアプローチです。

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生産管理の捉え方(講演資料:IoTで変わるものづくりの現場より)

タームとスピードの異なるPDCAが両輪で回る

 よく使われるPDCAには2種類あります。ひとつは、よくご存じのPlan、Do、Check、Actionのサイクル。計画を立てて実行し、結果をチェックしてアクション起こします。製造業にはもうひとつのPDCAがあります。Problem finding、Display、Clear、Acknowledge、すなわち問題発見、見える化、解決、確認の事務系のサイクルです。タームとスピードの異なるPDCAが両輪で回っています。

 従来の生産管理システムは2つのPDCAを有機的につなぐ位置にありました。今後はIoTやIE、サプライチェーン・マネジメント、サプライチェーン・プランニングなど社外の取引先とのいろいろなネットワークを含めたPDCAを実行していかなければなりません。それが継続的な企業価値の向上につながります。

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ダブルループを中心としたIotとIE、SCMの融合(講演資料:IoTで変わるものづくりの現場より)

次世代ものづくり経営に求められるもの

調達、生産、流通、販売のサプライチェーン全体を最適化

 では、次世代のものづくり経営で具体的に求められるものは何か。第1に動的サプライチェーン・マネジメント(SCM)の実現です。調達、生産、流通、販売のサプライチェーン全体を最適化することで、リードタイムの短縮や在庫削減などを実現します。

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サプライチェーンマネジメント(SCM)の実現(講演資料:IoTで変わるものづくりの現場より)

IoTを前提とした組織力の再強化が必要

 第2にIoTを前提とした組織力の再強化が必要になります。個人の能力やノウハウ、知恵をナレッジベースに結集します。属人的なものを、どんどんデジタル化し、人に内在する無形資産の棚卸しを行って企業価値に変えていくわけです。内側のノウハウを文字化・視覚化していく作業です。

 IoTを前提とした明確な理念や戦略も必要です。今後は、どんな企業もIoTを前提とした製品づくりをしなければいけません。先に何かつくって、後から安易にインターネットにつなげるレトロフィットではなく、設計の段階からインターネットと密接不可分の製品づくりを行っていく。そうした戦略を持つことです。

 独自のネットワークを構築してもいいし、製品にセンサーをつけてもいい。最近ではセンサーつきの哺乳瓶も販売されています。哺乳瓶でミルクを飲むと、授乳履が記録される。バイタルセンサーと哺乳瓶がつながり、医療や健康維持に役立っています。哺乳瓶を設計する際、幼児医療も視野に入れていたわけです。

 ラインや企業を超えた知恵・知識の交流も必要です。事業部制は、もう古い。ビッグデータやAI活用を目的としたクロス・ファンクショナルな組織づくりが求められています。

 組織の敏しょう性を高める必要もあります。IoTのデータが大量に入ってきますから、すばやく分析して、フィードバックしなければいけません。オペレーションの敏しょう性、ポートフォリオの敏しょう性、戦略の敏しょう性の3つがあってはじめて、組織の敏しょう性が生まれます。

 コンカレント・エンジニアリング(製品開発で2つ以上のプロセスを並行して進め、期間短縮やコストの削減を実現すること)やアジャイル(開発期間を短縮し、リスクを減らす開発手法)でノウハウを結集したものづくりに取り組む必要があります。どの業種の設計担当者も今後はネットワークやITの知識が不可欠です。

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IoTを前提とした組織力の再強化(講演資料:IoTで変わるものづくりの現場より)

すべてにおいて標準化を推進し、多能工化を進める

 第3に、次世代ものづくり経営では、すべてにおいて標準化の推進が求められます。多能工化を進めて、人材の活性化を図ります。マス・カスタマイゼーションは現場の多能工化・標準化、自動化の推進とロボットの活用が前提になっています。

見える化サイクルを短縮し、IoTを利用して無形資産の見える化を

 第4に、見える化サイクルの短縮化も重要です。ポイントはIoTを利用して無形資産の見える化を進めることです。見える化とは可視化+自律的改善を意味します。可視化はPDCAのPとD、自律的改善はCとAにあたります。ですから、見える化の本当の勝負は見えた後にあります。

 私どもが使っている見える化シートをご紹介します。簡単なもので、誰が、何を、どのようにするのかが一目瞭然のシートです。「誰が」はトップ、マネジャー、担当。「何を」は、成果、業務、資源、顧客。「どのように」は、今どうなっていて(現状)、何が目標で(目標設定)、現状と目標に、どれだけ差があって(ギャップ認識)、どういう方向で問題を解決して(問題解決の道筋)、今、どのくらい進捗しているのか(「見えるか」進捗)を明らかにします。シートを埋めていくだけで「見え」てきます。

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見える化の基本的な枠組み(講演資料:IoTで変わるものづくりの現場より)

現場の改善活動をIoTによって見直す

 第5に、QC活動、小集団活動(動的なQC7つ道具)、VM、見える化、標準化、ポルフ、5S3、TOC(Theory of Constraints:制約条件の理論)、TPMなど現場の改善活動をIoTによって見直していくことです。

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見直される現場の改善活動(講演資料:IoTで変わるものづくりの現場より)

IoTを前提とした競争戦略の明確化を図り、コア・コンピタンスを確立

 第6に、IoTを前提とした競争戦略の明確化です。自社のコア・コンピタンス(競合他社を圧倒的に上回る強み)を明確にする必要があります。そのためには何度もいいますが、IoT、IoSを前提とした製品設計に取り組まなければいけません。モノではなく、サービスを売る時代です。本格的なB to Bによる資材調達も考慮に入れます。

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IoTを前提とした競争戦略の明確化(講演資料:IoTで変わるものづくりの現場より)

ものづくりの技術だけではなく、IT技術、データ分析の感性を持った人材を育成

 第7に、新しい感性を有する現場人材の育成です。ものづくりの技術だけではなく、IT技術、データ分析の感性を持った人材を育てなければなりません。あふれているデータの中から、有意味なデータを選び取り、ものごとの因果関係を見つけられる人。社内データサイエンティストの育成、調整能力の高いマネジメントの育成、女性の戦力推進にも真剣に取り組みます。

 最終的には生産性の問題にたどり着きます。日本は非常に生産性が高いと思われがちですが、米国を100とすると、日本は米国の65%に過ぎません。米国では1時間に100ドルのものをつくるとすると、日本は65ドルのものしかつくれません。これまでの日本は、とにかくがむしゃらに働いて、効率は二の次でした。特にホワイトカラーの生産性が低い。実は先進国の中で19年連続最下位という体たらくです。

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最終的には生産性問題にたどりつく(講演資料:IoTで変わるものづくりの現場より)

IoTを利用した全員参加のものづくり戦略の実現が必要

 かつて全員参加のTPM(Total Preventive Maintenance)が求められました。「自分の設備は自分で守れよ」という話でした。IoTの時代は生産管理(Total Production Management)が多くの企業で求められています。簡単にいえば、データを自分で処理して、全員で活用することです。それを前提としたものづくり戦略を立てなければなりません。これがIoT時代の結論です。

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 講師ご紹介 

株式会社エクス
代表取締役社長 抱 厚志 氏

昭和35年7月大阪府大阪市住吉区生まれの堺市育ち。清風高等学校、同志社大学文学部社会学科卒。昭和60年4月三菱事務機械株式会社(現日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社)へ入社。
約10年間数多くの生産管理システム構築に従事。
ものづくりの奥行きの深さに魅了され、生産管理システムをライフワークとすることを決意し平成5年に同社を退職、平成6年9月に現在の株式会社エクスを設立。
同社の代表取締役社長に就任。翌年2月生産管理システム「Factory-ONE電脳工場」をリリース。現在までに1000社を超える導入実績がある。


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