2018/06/20

エンジェル税制について

1.はじめに

 国は経済政策の一環として多くの税制優遇措置を講じ、投資の促進・市場活性化に努めようとしています。以前紹介しました税制改正大綱の中において、新たな改正や成果の上がった制度の延長措置が示されますが、利用者は自身にとって魅力があるか否かにより制度を利用するか決めることになります。
 今回は平成9年に創設され、企業及び利用者双方にとってメリットの大きいベンチャー企業投資促進税制(以下「エンジェル税制」という)についてご紹介したいと思います。

2.エンジェル税制とは

 最初にエンジェル税制の趣旨についてご説明致します。
 エンジェル税制は、ベンチャー企業に投資しようとする個人投資家を対象とした税制措置であり、ベンチャー企業及び投資家の双方が要件を満たした場合に税制上の優遇措置を受けることが出来ます。投資家にとっては所得控除などの優遇を受けることにより、ベンチャー企業にとっては投資家による資金調達を容易にする効果が期待され、経済の発展に寄与することを目的としています。

 エンジェル税制を利用した投資額は25億円にも達していますが(平成27年当時)、制度が創設された当時の投資額は約8,000万円でした。この金額は制度を創設した当初の予定よりも低調な数字であり、市場の活性化や資金調達という目的からは満足な数字ではないかもしれません。原因の一つとしてエンジェル税制には煩雑な適用要件及び手続きがあり、要件により利用できる優遇措置の内容が変わるためです。まずは、優遇措置の内容について紹介したいと思います。

3.控除対象額について

⑴優遇措置の内容

 投資した年 に受けられる所得税の優遇措置

優遇措置A 優遇措置B
(対象企業への投資額-2,000円)を、その年の総所得金額から控除
※控除対象となる投資額の上限は、総所得金額×40%と1,000万円とのいずれか低い金額
対象企業への投資額全額をその年の他の株式譲渡益から控除
※控除対象となる投資額の上限なし

 株式を売却した時点 で受けられる所得税の優遇措置(売却損が生じた場合)
 ベンチャー企業株式を売却した際に生じた損失をその年の他の株式の譲渡益と相殺することができます。また、相殺しきれなかった損失については翌年以後3年間繰り越すことができ、その年毎の譲渡益から順次相殺します。
  投資した年に上記の優遇措置の適用を受けていた場合には、取得価額から控除対象金額を控除した金額をもってその取得価額とし、売却損を計上します。

⑵具体的計算方法

  投資した年に受けられる優遇措置には、上記の2種類があり、一定の要件を満たす場合にはいずれかを選択適用することができる。
  どちらを選択するのが有利であるかは以下の具体例のように判断します。

(イ)のケース (ロ)のケース
総所得金額 1,000万円 500万円
ベンチャー企業への投資額 500万円(その年に50万円で売却) 900万円(その年に200万円で売却)
他の株式譲渡益 100万円 400万円
    (イ)
  • 優遇措置A:1,000万円×40%-2,000円= 399.8万円 
  • 優遇措置B:100万円
  •  優遇措置A を選択する方が有利
    (ロ)
  • 優遇措置A:500万円×40%-2,000円=199.8万円
  • 優遇措置B: 400万円 
  •  優遇措置B を選択する方が有利

 売却時点における譲渡損失の計算は、投資した際の控除対象金額を控除した金額を取得価額とするため、①売却金額50万円-100.2万円(500万円- 399.8万円 )=▲50.2万円、②売却金額200万円-500万円(900万円- 400万円 )=▲300万円となる。それぞれの金額をその年及び翌年以後の株式譲渡益から相殺することが出来ます。

4.控除要件について

⑴企業要件

 エンジェル税制の適用を受けるためには、対象となる企業が5つの要件を満たす必要があります。そのうちの2つは以下の表の設立時期及び期間に応じた要件を満たす必要があり、要件については優遇措置A・Bによりそれぞれ異なります。

優遇措置A 優遇措置B
設立時期 設立3年未満の中小企業者 設立10年未満の中小企業者
以下の要件を満たす
設立から1年未満かつ最初の事業年度未経過 研究者あるいは新事業活動従事者が2人以上かつ常勤役員・従業員の10%以上 左記と同じ
設立から1年未満かつ最初の事業年度を経過 研究者あるいは新事業活動従事者が2人以上かつ常勤役員・従業員の10%以上で 直前期までの営業キャッシュ・フローが赤字  マーケティング費用等を含む試験研究費等が収入金額の3%超または新事業活動従事者が2人以上かつ常勤役員・従業員の10%以上
設立から1年以上2年未満 試験研究費等が収入金額の3%超で直前期までの営業CFが赤字。または新事業活動従事者が2人以上かつ常勤役員・従業員の10%以上で直前期までの営業CFが赤字
試験研究費等が収入金額の3%超で直前期までの営業CFが赤字。または売上高成長率が25%超で営業CFが赤字
試験研究費等が収入金額の3%超または売上高成長率が25%超
設立から2年以上かつ3年未満 試験研究費等が収入金額の3%超で直前期までの営業CFが赤字。または売上高成長率が25%超で営業CFが赤字 試験研究費等が収入金額の5%超

 企業要件には、ベンチャー企業として新事業活動に着手しているかが問われ、最初の事業年度を経過している場合、優遇措置Aには営業キャッシュ・フローの赤字が要件となっているので注意が必要です。
 その他の要件についても列挙して参ります。

  • ・外部(特定の株主グループ以外)からの投資を1/6以上取り入れていること
  • ・大規模法人及び当該大規模法人と特殊な関係にある法人の所属に属さないこと
  • ・未登録・未上場の株式会社で風俗営業等に該当する事業を行う会社でないこと

⑵投資者要件

 投資者要件は2つの要件を満たす必要があります。

  • ・金銭の払込により、対象企業の株式を取得していること
  • ・投資先の対象企業が同族会社である場合には、持株割合が大きいものから第3位まで
     の株主グループの持株割合を順に加算し、その割合が初めて50%超になる時における
     株主グループに属していないこと

 投資者要件は、企業要件に比べて要件自体は多くないが、現物出資による投資は出来ないため、その点について注意が必要です。

5.手続きについて

⑴企業側の手続き

①事前確認制度
  先ほど記載しました通り、エンジェル税制の企業側の要件は細かく設定されています。そのために、投資を受けた後で対象企業としての要件を満たしていなかった等の事情を事前に防ぐために「事前確認制度」という制度が設けられています。
 事前確認制度とは、ベンチャー企業が個人投資家から投資を受ける前にエンジェル制度対象企業か否かを判定できる制度です。当該制度を利用して事前確認を受けた企業は、経済産業省のホームページに企業名等が公表されるため、投資家に対してのアピールになり資金調達がしやすくなるというメリットもあります。

②手続きの流れ
 事前確認制度による承認を受けた企業は、投資家から投資があった場合には、基準日(払込日または払込期日)において都道府県に対して再度要件判定の確認申請を行います。確認申請の際の要件判定は、基準日における企業の状況で判定します。事前確認の際には申請日で判定し、投資後には払込日または払込期日で判定するので、時点の把握は確認しておく必要があります。エンジェル税制の対象と確認されますと、企業へ経済産業大臣の確認書が発行されます。企業は確認書の他に付属書類を作成し、確定申告の際に添付する書類一式として投資家に交付致します。

⑵投資家側の手続き

①投資の方法
 投資家は、以下の3つの方法でベンチャー企業へ投資することが出来ます。

  • ・直接投資
  • ・認定投資事業有限責任組合経由
  • ・証券会社経由

 それぞれの投資の方法により確認申請の方法が異なりますので、一部ご紹介致します。認定投資事業有限責任組合を通じて株式を取得した場合には、企業要件の「設立期間に応じた要件」及び「外部からの投資」という2つの要件が免除(優遇措置Aの適用を受けている場合を除く)されます。さらに、当該組合を通じて、企業へ確認書が発行されるため、都道府県への確認申請が不要となります。証券会社を通じて取得した際にも同様の免除を受けることが出来ますが、優遇措置Aを選択した場合には、こちらの免除はございませんので、通常の確認申請を行う必要があります。

②確定申告時
 企業または上記組合若しくは証券会社より確認書及び附属書類の交付を受けた投資家は、自身の確定申告の際に添付書類として一緒に提出し、こちらを提出することによりエンジェル税制による優遇措置を受けることが出来ます。

6.おわりに

 今回は企業及び投資者双方にとってメリットのある税制優遇措置であるエンジェル税制についてご紹介して参りました。エンジェル税制は要件及び手続きが煩雑とされています。実際に、企業要件には営業キャッシュ・フローの赤字が要件となっていて適用が出来ない企業もあるかと思います。手続きについても必要書類が多く、書類を用意するために1ヶ月以上を要することもございます。
 しかし、諸外国と比較してもベンチャー企業に対する投資政策としての控除割合は大きく、企業にとっても資金調達としての効果は多大にございますので、上手く活用して頂ければと思います。

 執筆者 前川 研吾
汐留パートナーズグループ
汐留パートナーズ株式会社 代表取締役
公認会計士(日米)・税理士 前川 研吾

北海道大学経済学部卒業。公認会計士(日米)・税理士。
公認会計士試験合格後、新日本有限責任監査法人監査部門にて、建設業、製造業、小売業、金融業、情報サービス産業等の上場会社を中心とした法定監査に従事。
また、同法人公開業務部門にて株式公開準備会社を中心としたクライアントに対する、IPO支援、内部統制支援(J-SOX)、M&A関連支援、デューデリジェンスや短期調査等のFAS業務等の案件に数多く従事。
2008年4月、27歳の時に汐留パートナーズグループを設立。
税理士としてグループの税務業務を統括する。