特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)

1.はじめに

 現在の日本において、高年齢者や母子家庭の母等、身体障害や精神障害など種々の障害を持つ人びとは増加傾向にあり、これらの人びとは比較的就職が困難であるとされています。政府はこれらの就職困難者について、企業が積極的に雇用できるよう対策を講じており、助成金制度をはじめとするさまざまなサポート体制を整えています。

 今回は、そのような制度のひとつである「 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース) 」についてご紹介いたします。

2.特定求職者雇用開発助成金

 特定求職者雇用開発助成金は、就職困難者をハローワーク等の紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に対して支給される助成金です。 就職困難者とは、高年齢者、障害者、母子家庭の母など 、一定の理由から就職が困難である人のことをいいます。

 実際にこれらの就職困難者を雇用し助成金を受けるには、事業主や雇い入れる被保険者について一定の要件を満たしている必要があります。

(1) 対象となる事業主

 この助成金の支給を受けることのできる事業主は、以下のすべてに該当する事業主となります。

・雇用保険の適用事業主であること
・就職困難者をハローワーク等の紹介により雇用保険の一般被保険者として雇い入れること
・就職困難者を継続して雇用することが確実であると認められること
・基準期間(※)に事業主の都合による従業員の解雇(勧奨退職を含む)をしていないこと
・基準期間(※)までに事業主の都合により離職した累計の被保険者数が、雇入れ日における被保険者数の6%を超えていないこと
・助成金の支給又は不支給の決定に係る審査に協力する事業主であること

(※)就職困難者の雇入れ日前後6か月間の期間をいいます。

 なお、この制度を利用するのが二回目以降である場合、それ以前に雇入れた就職困難者等の離職率等も併せて考慮することとなるため、この制度を複数回利用する際には、より慎重な雇用計画を立てることが重要です。

(2) 対象労働者

助成金の支給対象となる労働者は、以下のような労働者のうち、 雇入れ日において満65歳未満である者 に限られます。

・60歳以上の者 ・母子家庭の母等
・身体障害者 ・父子家庭の父
(児童扶養手当を受給している方に限る)
・知的障害者 ・中国残留邦人等永住帰国者
・精神障害者 ・その他一定の者

 なお、前述のとおり ハローワーク等からの紹介を受けた者に限られる ため、企業と就職困難者との間で直接雇用の約束があった場合や、一般のリクルートサイト等からの雇入れは対象とならないため、注意が必要です。

(3)支給額

 対象労働者に支払われた賃金の一部を補助するものとして、以下の金額が 支給対象期ごとに支給 されます。支給対象期とは、雇入れ日(賃金締切日が定められている場合には雇入れ日の直後の賃金締切日の翌日)から6か月ごとに区切った期間をいいます。

【短時間労働者以外】

対象労働者 支給額 助成対象期間 支給対象期ごとの支給額
60歳以上65歳未満の高年齢者
母子家庭の母等
60万円
(50万円)
1年 30万円×2期
(25万円×2期)
身体・知的障害者 120万円
(50万円)
2年
(1年)
30万円×4期
(25万円×2期)
重度障害者
45歳以上の障害者
精神障害者
240万円
(100万円)
3年
(1年6か月)
40万円×6期
(33万円×3期)
※第3期のみ34万円

(  )内は中小企業以外の企業に対する支給額、助成対象期間を表します。

【短時間労働者】

対象労働者 支給額 助成対象期間 支給対象期ごとの支給額
60歳以上65歳未満の高年齢者
母子家庭の母等
40万円
(30万円)
1年 20万円×2期
(15万円×2期)
障害者 80万円
(30万円)
2年
(1年)
20万円×4期
(15万円×2期)

(  )内は中小企業以外の企業に対する支給額、助成対象期間を表します。

 短時間労働者とは、一週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者をいいます。この対象労働者は雇用保険の被保険者である必要があるため、雇用保険に加入することのできない、労働時間が週20時間未満の労働者は対象となりません。したがって、上記の「短時間労働者以外」とは、一週間の所定労働時間が30時間以上である者のことを指します。

 なお、これらの助成金は支給額の補助という性質を持つため、 実際に対象労働者に支給した額が上限 となります。

3.手続き

この助成金は、以下に掲げる手続きを経て支給を受けることができます。

(1) ハローワーク等からの紹介

 受給対象となる労働者の 紹介を受けます 。「ハローワーク等」には、ハローワークのほか、特定地方公共団体、有料職業紹介事業者や無料職業紹介事業者なども含まれます。

(2)対象労働者の雇入れ

  紹介を受けた労働者を 雇い入れます 。ただし、ハローワークからの紹介日より前に雇用の予約があった場合などは支給の対象とはなりません。また、その雇入れ日の前日から過去3年間にその労働者が雇入れる事業所で働いたことがある(非正規雇用を含む)場合についても、支給の対象と認められません。

(3)助成金の支給請求

 助成金は2回~6回に分割して支給され、それぞれの 支給対象期ごとに助成金の支給請求 をします。申請の際には各支給対象期間の末日から2か月以内に支給申請書を提出します。

 2か月以内に申請しなかった場合、その期の支給は受けることができなくなります。

(4)支給申請書の内容の調査、確認、支給・不支給の決定

 支給申請書が提出されると、管轄の労働局やハローワークでその内容を支給要件に照らして審査します。支給・不支給の決定は事業主に通知書が送付されることによって通知されます。

(5)助成金の支給

 審査のうえ、支給対象として適正と認められた場合には、助成金が支給されます。支給決定が行われてから指定の金融口座に振り込みがあるまでに時間がかかる場合があります。また、支給後に申請内容が 不正なものであった等の事実が発覚した場合には、助成金の返還を求められる ことがあります。

 なお、第2期以降の支給対象期間については(3)から(5)の手続きを繰り返すこととなります。

4.おわりに

 今回は特定の就職困難者を雇用した場合に一定の助成を受けることができる「特定求職者雇用開発助成金」についてご紹介させて頂きました。この制度には今回ご紹介した以外にも細かな規定や複雑な手続きなどがあり、制度の利用にあたってはそうした要件を満たすための事務作業等も考慮に入れて検討することが必要です。また、就職困難者の長期的な雇用を前提とした制度であるため、事前の計画も重要となります。

 利用にあたっては制度の趣旨や背景を理解したうえで、適切に活用することが大切です。

著者近影
執筆者
RSM汐留パートナーズ税理士法人
パートナー 税理士
長谷川 祐哉

埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
上場企業やIPO準備会社に対して、連結納税支援、原価計算・管理会計導入支援、会計ソフト導入支援などの高度なコンサルティングサービスを提供している。国税三法と呼ばれる所得税、法人税、相続税の3つの税務に精通。

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