災害時の会計処理及び税務上の取扱い

災害時の会計処理及び税務上の取扱い

1.はじめに

 昨今、新型コロナウイルスの影響が続く中で、大雨土砂災害の発生など、私たちを取り巻く環境は極めて厳しいものになっています。災害が発生した際には、その被害の甚大さに鑑み、会計上の災害損失(特別損失)の計上や税務上の損金算入、及び欠損金の繰越しや繰戻しといった特別な制度があります。今回は、いつ私たちを襲ってくるかわからない外的リスクである災害に直面した際の、会計処理や税務上の取扱いについて見ていきたいと思います。

2.災害の範囲

 災害には以下のものが含まれます。

災害の範囲

自然災害 震災、風水害、火災、冷害、雪害、落雷、干害、噴火
その他の自然現象の異変による災害
人為的災害 鉱害、火薬類の爆発その他の人為による異常な災害
生物による災害 害虫、害獣その他の生物による異常な災害

3.災害損失の会計処理

 災害によって生じた棚卸資産、固定資産及び一定の繰延資産に係る損失は、災害損失として特別損失に計上することになります。災害損失の範囲には、災害によって失われた資産の直接的な損失だけでなく、その後の除去作業や事後処理などの修繕費、災害から1年以内に行われた原状回復のための修繕費用等(災害損失特別勘定の設定について、下記「5.災害損失特別勘定」を参照)も含まれます。

4.災害損失の税務上の取扱い

 被災した法人の災害損失等に関する法人税の取扱いは、以下の通りです。

①災害により滅失・損壊した資産等

 法人の有する商品、店舗、事務所等の資産が災害により被害を受け、以下の損失又は費用が生じた際には、その全額が損金に算入されます。

災害により滅失・損壊した資産等

1 商品や原材料等の棚卸資産、店舗や事務所等の固定資産などの資産が災害により滅失又は損壊した場合の損失
2 損壊した資産の取壊し又は除去のための費用
3 土砂その他の障害物の除去のための費用

②資産の評価損

 法人の有する棚卸資産、固定資産又は一定の繰延資産について、災害による著しい損傷が生じたことにより、その時価が帳簿価額を下回ることとなった場合には、帳簿価額と時価との差額を評価損として計上し、損金経理をすることにより、損金算入することができます。

③復旧のために支出する費用

 法人が災害により被害を受けた固定資産(以下、「被災資産」)の復旧に関して支出する費用は、以下のように、修繕費と資本的支出とに区分され、修繕費として処理されたものは損金算入できます。

復旧のために支出する費用

内容 修繕費or資本的支出
1 被災資産の原状回復のための費用 修繕費
2 被災資産の被災前の効用を維持するために行う補強工事、
排水又は土砂崩れの防止等のために支出する費用
修繕費
3 被災資産について支出する費用(上記1、2を除く)のうち、
資本的支出か修繕費か明らかでないものがある場合
30%相当額→修繕費
残額→資本的支出

5.災害損失特別勘定

 被災資産の修繕等のために、災害のあった日から1年以内に支出すると見込まれるものとして適正に見積もることができるものについては、実際の支出が事業年度を跨ぐものであったとしても、損金経理により災害損失特別勘定に繰り入れることで、被災事業年度の損金に算入することができます(災害損失特別勘定の繰入限度額については、法人税基本通達12-2-7参照)。

 この損金経理により災害損失特別勘定に繰り入れた金額は、災害損失の額に含まれます。

 また、災害のあった日から1年を経過する日の属する事業年度において、災害損失特別勘定の残額がある場合には、その残額を取り崩して益金の額に算入することとなります。但し、やむを得ない事情により修繕等が遅れているときは、税務署長の確認を受けることにより、その修繕等が完了すると見込まれる日の属する事業年度まで、災害損失特別勘定の残額の益金算入を延長することができます。

 災害損失特別勘定の税務処理の具体的なイメージは以下の通りです。

災害損失特別勘定の税務処理イメージ

【被災事業年度】修繕費用等の見積額を100とする。
災害損失特別勘定繰入額 100 / 災害損失特別勘定 100
➡損金算入 100

【翌事業年度】
①実際の修繕費用の支出が95であった。
修繕費 95 / 現金預金 95
災害損失特別勘定 95 / 災害損失特別勘定取崩額 95
➡修繕費 95と災害損失特別勘定取崩額 95が相殺

②災害損失特別勘定の残額 5を取崩す。
災害損失特別勘定 5 / 災害損失特別勘定取崩額 5
➡災害損失特別勘定の残額分 5が益金算入

6.災害損失欠損金

 災害損失欠損金とは、被災事業年度の欠損金額のうち、被災資産に関して発生した災害損失から、保険金や損害賠償金によって補填される部分を除いた金額をいいます。

 災害損失欠損金が発生した場合には、①災害損失欠損金の繰越し控除、及び②災害損失欠損金の繰戻し還付が受けられます。

①災害損失欠損金の繰越し控除

 災害損失欠損金額がある場合には、その損失の発生した事業年度が青色申告書を提出できない事業年度であっても、災害損失欠損金額に相当する金額は、その事業年度から最大10年間(2018年3月以前に開始した事業年度の場合は9年間)にわたって繰り越して控除することができます。

②災害損失欠損金の繰戻し還付

 災害があった日から1年以内に終了する事業年度、又は半年以内に終了する中間期間で、災害損失欠損金額が発生した場合、その年度の前1年 (青色申告法人は前2年)以内に開始した事業年度に納付した法人税額のうち、災害損失欠損金額に対応する部分に関して還付請求することができます。

 この制度は白色申告法人でも適用可能であり(前期分のみ)、青色申告法人であれば、前期分に加えて前々期分の法人税の還付が受けることができる点、中間申告での適用が可能である点で、通常の欠損金の繰戻し還付と異なっています。

7.新型コロナウイルスの影響に関連する事例

 新型コロナウイルスに関連し、棚卸資産や固定資産などに損失が生じている場合や、感染症拡大・発生防止のための消毒等の費用を支出している場合、これらの損失や費用の額は、災害損失欠損金の繰戻し還付制度の対象となる「災害により生じた損失の額」に該当するものとされました。 国税庁「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」にて示されている新型コロナウイルスの影響により「災害損失欠損金」に該当する事例は以下の通りです。

【災害損失欠損金に該当する例】

  • 飲食業者等の食材(棚卸資産)の廃棄損
  • 感染者が確認されたことにより廃棄処分した器具備品等の除却損
  • 施設や備品などを消毒するために支出した費用
  • 感染発生防止のため、配備するマスク、消毒液、空気清浄機等の購入費用
  • イベント等の中止により、廃棄せざるを得なくなった商品等の廃棄損

※繰戻し還付の対象となる災害損失とは、棚卸資産や固定資産に生じた被害(損失)に加え、その被害の拡大・発生を防止するために緊急に必要な措置を講ずるための費用が該当します。

【災害損失欠損金に該当しない例】

  • 客足が減少したことによる売上げ減少額
  • 休業期間中に支払う人件費
  • イベント等の中止により支払うキャンセル料、会場借上料、備品レンタル料

※上記のように、棚卸資産や固定資産の被害の拡大・発生を防止するために直接要した費用とは言えないものについては、災害損失欠損金に該当しません。

8.おわりに

 元来、災害大国と言われる我が国において、先行き不透明な新型コロナウイルスの影響も相まって、災害時を想定した会計処理や税務上の取扱いについて理解しておく必要性は高まっています。当コラムが災害時における会計・税務処理や制度理解の際の参考となれば、幸いです。

著者近影
執筆者
RSM汐留パートナーズ税理士法人
パートナー 税理士
長谷川 祐哉

埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
上場企業やIPO準備会社に対して、連結納税支援、原価計算・管理会計導入支援、会計ソフト導入支援などの高度なコンサルティングサービスを提供している。国税三法と呼ばれる所得税、法人税、相続税の3つの税務に精通。

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