平成30年度税制改正大綱について③

1.はじめに

高齢化の進む我が国において、企業経営者の世代交代は目を背けることができない重要な要素のひとつです。平成30年度税制改正大綱では、企業の経営者の世代交代にフォーカスした「事業承継税制」に関して改正が加えられました。
今回はこの「 事業承継税制 」の改正点についてご紹介いたします。

2.事業承継税制とは

事業承継税制は、平成30年度の税制改正大綱において特例が創設されましたが、まずはこの税制がどのような制度なのかをご説明いたします。

⑴背景と概要
企業の代表者が死亡した場合において、その人の所有していた株式が後継者に相続または遺贈されるケースがあります。このような場合には相続税が課税されることとなりますが、株式の価格が高額である場合、後継者にとってはその相続税が大きな負担となります。生前贈与した場合でも贈与税が課されることとなり、 会社の円滑な世代交代にとって相続税、贈与税は大きな障害 となっていました。
このような状況を改善すべく、平成21年に創設されたのが「事業承継税制」です。
事業承継税制は、上記のように本来であれば相続税などの税金が課されるケースにおいて、 一定の要件を満たしている間は一定の税額を猶予する という制度です。また、その要件を満たした状態を維持したまま、さらに次世代へ同制度を利用し事業承継をした場合には、 猶予されていた税額が免除 されることとなります。
贈与税、相続税のいずれにおいても適用することのできる制度で、各税において適用要件等に大きな違いはありません。この記事では、相続税の猶予、免除を前提として事業承継税制についてご説明いたします。

⑵適用要件

この税制を適用する際には、 都道府県知事の認定を受ける 必要があります。相続税の猶予について認定を受けるためには、以下の要件を満たしていなければなりません。

 ①先代経営者が満たすべき要件 
  • 会社の代表者であったこと
  • 相続開始の直前において、先代経営者と同族関係者で発行済議決権株式総数の50%超を保有していたこと
  • 相続開始の直前において、後継者を除く同族内で筆頭株主であったこと
  • その他一定の要件
 ②後継者が満たすべき要件 
    • 相続開始の直前において対象会社の役員であること
    • 相続開始後、後継者と同族関係者で発行済議決権株式総数の50%超を保有していること
    • 相続開始後、同族内で筆頭株主であること
    • その他一定の要件

(必ずしも先代後継者の親族等である必要はありません)

 ③対象会社が満たすべき要件 
  • 中小企業者(※)であること
  • 上場会社、風俗営業会社に該当しないこと
  • 資産保有型会社等(自ら使用していない不動産等が70%以上ある会社やこれらの特定の資産の運用収入が75%以上ある会社)ではないこと
  • その他一定の要件
 (※)中小企業者の定義 

この税制における中小企業者とは、以下の各業種において資本金要件または従業員数要件を満たす企業を言います。

資本金要件 従業員数要件
製造業その他 3億円以下 300人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
小売業 5千万以下 50人以下
サービス業 5千万以下 100人以下

なお、ゴム製品製造業、ソフトウェア・情報処理サービス業については別途機銃が定められています。

⑶猶予、免除までの流れ

相続税の猶予、あるいは免除を受けるには、以下の手続き・手順を完了する必要があります。

 ①都道府県知事の認定を受ける 

相続開始の日から5ヶ月~8ヶ月の間に、対象会社の本社所在地の都道府県庁に似て言申請を行います。申請の際には一定の書類を添付して申請書を提出します。
審査ののち、認定を受けることができた場合には、認定書の交付を受けることとなります。

 ②相続税の申告を行う 

相続開始の日から10ヵ月以内に相続税の申告を行います。申告の際には上記都道府県知事の認定書が必要となるほか、一定の書類の提出が求められます。また、猶予される相続税及び利子税の額に見合う担保を税務署に提出する必要があります。
この申告により、先代経営者から相続した議決権株式に対応する相続税のうち80%について、納付を猶予されることとなります。ただし、対象会社の発行済議決権株式等の2/3に係る部分を限度とします。

 ③一定の要件を満たす状態を維持する 

以下の継続要件を満たす状態を5年間維持します。

 後継者が会社の代表者であること
 従業員数の8割以上を平均で維持すること
 後継者が筆頭株主であること
 上場会社、風俗営業会社に該当しないこと
 相続税の猶予対象となった株式を継続保有していること
 資産保有型会社等に該当しないこと

この5年間については、上記継続要件を満たしていることなどを報告する 「年次報告書」を都道府県に年に1回提出 するとともに、引き続き納税猶予の特例を受けたい旨などを届出る 「継続届出書」を税務署に年に1回提出 します。

5年経過後は、以下の要件を満たす状態を維持します。

 相続税の猶予対象となった株式を継続保有していること
 資産保有型会社等に該当しないこと

5年経過後は、引き続き納税猶予の特例を受けたい旨などを届出る 「継続届出書」を、3年に1回、税務署に提出 します。
上記継続要件を満たさなくなった場合は、猶予されていた税額と、猶予期間(5年経過後は、猶予期間から5年を控除した期間)に対応する利子税をあわせて納付する必要が生じます。

 ④次世代の後継者に事業承継する 

相続税の猶予を受けている後継者が、次世代の後継者に株式を贈与し、その次世代の後継者が同制度の利用により贈与税猶予の認定を受けた場合には、後継者が猶予を受けている相続税は免除されることとなります。
なおこの場合、次世代の後継者への事業承継は、相続・遺贈ではなく、贈与である必要があります。

3.平成30年度の改正

平成30年度税制改正大綱において、平成30年1月1日からの10年間に限り、一定の条件を満たした場合に適用が可能となる 特例が新たに創設 されました。

⑴猶予の対象となる株式

納税猶予の対象となる株式は、従来は後継者が取得した議決権株式等のうち発行済議決権株式等の2/3を限度としていましたが、特例を利用することにより すべての株式が猶予の対象 とすることができます。

⑵納税が猶予される額
納税が猶予される額は、従来は猶予対象株式等に係る相続税の80%とされていましたが、特例を利用することによりその 100%が猶予 されます。

⑶雇用の維持
納税の猶予を受け続けるための要件のひとつに、5年間従業員数の8割以上を平均で維持することが挙げられています。従来はこの要件が満たせなくなった場合、猶予が受けられなくなり、利子税とともに相続税を納付する必要が生じていました。しかし特例を利用することにより、この要件を維持できなくなった場合においても、 維持できなくなった正当な理由がある場合には 、その理由を記載した書類を都道府県に提出することで、 猶予を受け続けることができる ようになりました。

⑷先代経営者の要件
先代経営者の要件として、会社の代表者であることが求められており、必然的にこの制度の適用対象は先代経営者ひとりからの相続に限られていました。しかし特例を利用することにより、会社の代表者からの相続があった場合において、それ以外に他の人から対象会社の株式の贈与、相続、遺贈を受けたときに、それら 他の人から受けた株式についても同制度を利用できる こととなりました。

⑸後継者の要件
従来の制度では、適用対象は一人の後継者への相続に限られていました。しかし特例を利用することにより、 最大3名への承継を対象とする ことができます。ただし、各後継者については、 以下の要件を満たしている必要 があります。

  • 代表権を有すること
  • 同族関係者と併せて対象会社の総議決権の過半数を有すること
  • その他一定の要件

上記以外にも、特例の利用により猶予後の納付額などに一定の緩和が受けられることとなりました。

特に雇用の維持という点においては、達成のハードルが非常に高く、この制度の利用者が増えない一因となっていました。雇用の維持を達成できなかったことで、それまで猶予されていた分の利子税が加算されるとなれば、それをリスクに感じるのはごく自然なことです。
今回の改正により創設された特例には、高かったハードルを下げ、 世代交代をよりスムーズに行うための環境を整える ことが期待されています。

4.おわりに

平成30年度の税制改正大綱のうち大きな改正点を三回にわたりご紹介させて頂きました。税に関する法律は毎年のように改正が加えられ、その時々に合った形へ絶えず変化していきます。自社にとって常に有利な状況を整えていくうえで、こうした税制やその他の優遇制度に広くアンテナを張り、会社の発展につなげていくことが重要であるといえるでしょう。

執筆者
汐留パートナーズグループ
汐留パートナーズ税理士法人
代表社員 税理士 長谷川 祐哉
埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
企業会計を中心とする深い知識により、顧客との強固な関係を築くのに成功している。
グローバル企業や上場会社及び上場準備会社に関する税務を担当している。

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