2025年5月に成立した改正労働安全衛生法と 企業実務への影響について

2025年5月に成立した改正労働安全衛生法と 企業実務への影響について

1.はじめに

 2025年5月、労働安全衛生法の改正法案が国会で可決・成立しました。今回の改正では、フリーランスを含む個人事業者への安全衛生対策の拡充、ストレスチェック義務化の対象拡大、化学物質リスク管理の厳格化、高年齢労働者の災害防止策の推進といった、多岐にわたる項目が盛り込まれています。本稿では、改正の背景と主なポイントを整理し、企業が講ずべき実務対応について解説いたします。

2.改正の背景

 働き方の多様化が進む中、企業に雇用されていない個人事業者やフリーランスが職場で業務に従事する機会が増加しています。従来、労働安全衛生法の適用は「労働者」に限定されていましたが、同様の業務に従事し、同様の災害リスクに晒されている個人事業者を保護の枠外に置くことは現実に即していないとの指摘がありました。

 また、従業員のメンタルヘルス対策として注目されてきたストレスチェック制度についても、現行では従業員数50人以上の事業場が対象ですが、小規模事業場におけるメンタル不調も深刻な問題となっており、制度の対象拡大が求められていました。

 さらに、化学物質による健康障害防止策の強化や、高齢労働者の増加に伴う災害防止措置の必要性など、現代の労働環境に即した安全衛生体制の再構築が求められていたことも、今回の改正の背景として挙げられます。

3.改正の概要

(1)個人事業者等への安全衛生対策拡充

 企業がフリーランスや個人事業主に業務を委託する場合、混在作業による災害を防止するための措置が義務付けられます。加えて、個人事業者自身にも一定の安全衛生教育の受講、災害時の報告義務などが課されることになります。

(2) ストレスチェックの義務化拡大

 これまで努力義務とされていた50人未満の事業場についても、ストレスチェックの実施が法的義務となる見込みです。施行時期については政令で定められると予定であり、準備期間が設けられる見通しです。

(3) 化学物質のリスク管理強化

 化学物質の譲渡・提供に際し、危険有害性の情報提供(SDSなど)を怠った場合の罰則が新設されました。また、個人ばく露測定が作業環境測定の一手法として法定化され、より精緻な管理が求められます。

(4) 高年齢労働者の労災防止推進

 60歳以上の高年齢労働者について、事業者は災害防止措置を講ずる努力義務を負うことになります。今後、厚生労働省から具体的な指針が示される予定です。

4.実務への影響と対応のポイント

(1)業務委託契約の見直し

 フリーランスとの契約においては、災害時の報告や安全管理責任に関する取り決め、特別教育が必要な作業の明示などを明文化しておくことが重要です。

(2)ストレスチェック体制の構築

 今後はすべての事業場が対象となる見込みです。対象拡大に備え、産業医との連携、外部委託の検討、プライバシー保護に配慮した体制整備を進めましょう。また、ストレスチェック体制の整備にあたっては、社内規程の整備も併せて必要となります。

(3)化学物質管理の再点検

 SDSの適正交付、構成成分の明示、ラベル表示の整備等の再確認に加え、ばく露測定など、法改正に即した対応を講じる必要があります。

(4)高年齢労働者への配慮

 努力義務ではありますが、作業の軽減、休憩時間の確保、職場環境の整備など、厚生労働省の指針に基づいて、実態に即した対策が求められます。

5.おわりに

 本改正は2026年4月1日からの施行が予定されていますが、内容の一部については、省令・告示等によって詳細が定められる見通しです。企業においては、制度の趣旨を十分に理解した上で、計画的に準備を進める必要があります。今後、安全配慮義務の範囲はさらに拡大し、企業に課される責任は一層重くなることが予想されます。経営者・総務部門の皆様におかれましては、最新情報を把握し、社内規程や運用の見直しを通じて、実効性ある対策を講じていただくことを強く推奨いたします。 


執筆者
RSM汐留パートナーズ
社会保険労務士
高橋 圭佑

大学卒業後、東京都内の事業会社にて人事・労務領域を中心としたコンサルティング業務に従事。その後ノータス経営労務事務所を設立し、主に人事労務、企業法務に関するサービスを提供し、数多くのクライアントの成長をサポート。2022年4月、ノータス経営労務事務所とRSM汐留パートナーズ社会保険労務士法人との経営統合に伴い、RSM汐留パートナーズ社会保険労務士法人のパートナーに就任。社会保険労務士、行政書士。

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