消費税の軽減税率について②

1.はじめに

前回は、消費税の軽減税率の概要及び軽減税率が導入された場合に必要となる適格請求書等保存方式(インボイス制度)の概要についてご説明しました。
消費税が単一税率から複数税率へ移行することにより、インボイス制度が導入され、新たな事務手続きが生じることとなります。
今回はインボイス制度の詳細な内容と事業者への影響についてご説明いたします。

2.改正の概要

軽減税率の導入にあたっては、事業者の事務負担増加を考慮して、平成29年4月1日から平成33年3月31日の4年間は簡素的な 区分記載請求書等保存方式 が導入され、その後 適格請求書等保存方式(インボイス制度) が導入される予定です。
インボイスとは、適用税率や税額など法定されている記載事項が記載された書類を指します。
インボイス制度とは、仕入側の課税事業者が、売上側の課税事業者が発行するインボイスに記載された消費税額のみ控除することができる、すなわちインボイスを保存することにより仕入税額控除を受けることができる仕組みとなります。

3.区分記載請求書等保存方式

現在の消費税法では、「請求書等保存方式」という経理方法を採用しています。
この請求書等保存方式とは、帳簿の保存に加え、第三者が発行した請求書等という客観的な証拠書類の保存を仕入税額控除の要件としています。
従来の消費税は税率が一律であるため、課税か非課税かの表示があれば、請求書等に税額や税率が記載されていなくても仕入税額の計算には支障がなく、また企業側の負担も少ないため、この方式が採用されています。
しかし、軽減税率すなわち複数税率の導入に伴い、請求書等保存方式が「区分記載請求書等保存方式」へと変更されます。
この区分記載請求書等保存方式とは、従来の経理方法を基本的に維持しつつ、請求書への記載においては軽減税率対象と標準税率対象のそれぞれの合計の取引金額を新たに記載することとなります。
これにより、仕入税額の計算が可能となります。記載内容の比較は次のようになります。

請求書等保存方式
(現在の制度)
区分記載請求書等保存方式
(平成29年4月1日~)
・請求書発行者の氏名又は名称
・取引年月日
・取引の内容
・対価の額
・請求書受領者の氏名又は名称
同左に加えて、
・軽減税率対象品目である旨
・税率ごとに区分して合計した対価の額

4.適格請求書等保存方式

区分記載請求書等保存方式はあくまで経過措置の方法であり、最終的には適格請求書等保存方式(インボイス制度)の導入が平成33年4月1日より予定されています。
この適格請求書等保存方式では 登録を受けた課税事業者(適格請求書発行業者) が交付する適格請求書及び帳簿の保存を仕入税額控除の要件としています。
また記載事項も次のような追加事項があります。

適格請求書等保存方式
(平成33年4月1日~)
区分記載請求書等保存方式の記載内容に加えて、
・事業者登録番号
・消費税額

5.免税事業者への影響

適格請求書等保存方式では、免税事業者は適格請求書発行事業者としての登録を受けることができず、適格請求書の発行をすることができません。
そのため、免税事業者から仕入れた場合には仕入税額控除を受けることができなくなります。
さらに適格請求書を発行できないこと自体がその事業者の信用力の低さとして認識される可能性があり、企業向けの取引を中心とした免税事業者が課税事業者の選択をせざるを得ない状況になることも考えられます。
課税事業者を選択することにより、消費税の申告に伴い、事務負担・費用負担の増加が懸念されます。

6.おわりに

今回は、軽減税率の導入により生じる企業側の事務手続きについてご説明をしました。
インボイスを発行する売上側の課税事業者への影響、そのインボイスを保存し仕入税額控除を受ける仕入側の課税事業者への影響、及び従来の免税事業者への影響と事業体によってそれぞれの立場で対応を図る必要があります。
今回は企業側が認識すべき軽減税率に伴う事務手続きという制度の内容について触れましたが、次回はより具体的な企業への影響として、「軽減税率導入によるシステム等への対応・各部署への影響」について検討します。

著者近影
執筆者
RSM汐留パートナーズ税理士法人
パートナー 税理士
長谷川 祐哉

埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
上場企業やIPO準備会社に対して、連結納税支援、原価計算・管理会計導入支援、会計ソフト導入支援などの高度なコンサルティングサービスを提供している。国税三法と呼ばれる所得税、法人税、相続税の3つの税務に精通。

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