消費税の軽減税率について③

1.はじめに

前回は、適格請求書等保存方式(インボイス制度)の詳細な内容と事業者への影響についてご説明いたしました。
インボイス制度の導入に伴い、所定の記載要件を充たしたインボイスを作成し、発行・保存することができるよう各システムの構築が必要となります。
したがって、軽減税率適用品目を取り扱うか否かに関わらず、すべての事業においてインボイス制度に対応を図る必要があります。
今回で軽減税率について最終回となりますので、事業者への影響についてより具体的に踏み込んだ内容に触れると共に、総括をしていきたいと思います。

2.情報システムへの影響

軽減税率の導入に伴い、消費税が単一税率から複数税率に変更されることで、各種システムの対応や継続的な改修、仕様の見直しが必要になると考えられます。
多くの企業に関係し、軽減税率の導入で検討すべき主なシステムと各システムに共通する要件が次のようになります。

主なシステム 各システムに共通する要件
① 会計システム
② POSレジシステム
③ 販売管理システム
④ 受注管理システム
⑤ 営業管理システム
  • 取引ごとに消費税率が異なる場合、取引コードごとに税率を設定することができる。
  • 販売時の値引きの際に、軽減税率対象品目と標準税率対象品目の販売額の比率で按分する等、値引き額を合理的に計算できる。
  • 過去の販売に係る返品等に対応できるよう、過去の税率のマスター情報を保存することができる。

また軽減税率への対応が必要となる中小企業や小規模事業者を対象に、一定の要件を満たすとシステム対応に係る経費の一部の補助を申請することができる 「軽減税率対策補助金」 という制度が今年の3月29日から開始されました。
今後も法整備の動向とともにこのような補助金制度についても確認していく必要があります。

3.店舗への影響

次に店舗への影響をご説明いたします。店舗では、大きく分けて二つの対応が必要となります。
一つ目は前章でもご説明した、軽減税率に対応したシステム導入、改修です。
軽減税率に対応したPOSレジシステムを導入する場合、購入するコスト以外にも定期的に行うマスター管理やメンテナンス等に係るコストがかかります。
また、現在領収書を交付するだけで良いところを、 適格請求書等保存方式 の導入後では、適格請求書を交付及び保存することが必要となります。
二つ目は店舗スタッフの教育です。
物の販売をしている事業者は、まず軽減税率の制度を理解し、販売している商品について軽減税率が適用されるものかどうかを把握することが求められ、またそれを現場の従業員と共有していく必要があります。

4.経理部への影響

最後に経理部への影響をご説明いたします。経理部では、データの管理方法と取引時の対応の二つの局面で検討が必要となります。
一つ目のデータ管理方法は、店舗にも共通することですが、適格請求書を発行・保存する義務が生じ、その結果保管資料の増加し、現在より管理コストがかかると想定されます。
また、適格請求書等保存方式を導入することで、その請求書(インボイス)をもとに税金の納付額を計算することとなります。
各取引において消費税率が異なるため、仕入先からの消費税率が間違ってないかを随時確認する必要があります。
二つ目の取引時の対応においては、取引先が免税事業者か課税事業者かで対応が変わります。
免税事業者は適格請求書発行事業者としての登録を受けることができず、適格請求書の発行をすることができません。
そのため、免税事業者からの仕入れについては仕入税額控除を受けることができないため、企業の経理部は取引先が適格請求書発行事業者かどうかを把握する必要があります。
また、仕入先を選定する上でも、取引先が適格請求書発行事業者かどうかを確認し、取引価格を検討する等の必要が出てくるでしょう。

6.おわりに

今回は、全3回に渡ってご説明してきました軽減税率の最終回となり、企業への影響としてより具体的なシステム対応等について触れ、総括とさせていただきました。
消費税の増税及び軽減税率は、安定した税収源の獲得、消費税の逆進性への対応策として導入される予定の制度です。
その一方で、対象品目やシステム導入、財源の問題等、政府内でも検討中の項目が多くあり、事業者の皆さまは今後の動向を常に確認していく必要があります。
軽減税率が導入されるにあたって考えられるシステムの導入・改修、人材教育等については今からでも検討していく必要があるでしょう。

著者近影
執筆者
RSM汐留パートナーズ税理士法人
パートナー 税理士
長谷川 祐哉

埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
上場企業やIPO準備会社に対して、連結納税支援、原価計算・管理会計導入支援、会計ソフト導入支援などの高度なコンサルティングサービスを提供している。国税三法と呼ばれる所得税、法人税、相続税の3つの税務に精通。

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