法人と不動産投資

1.はじめに

不動産を使った投資というのは、皆様一度は聞かれたことがあるかと思います。不動産と言っても、その種類・目的・使用状況によって法人に与える影響は多岐に渡ります。近年、国内外問わず日本の不動産市場への投資が増加している中、今回は法人が不動産へ投資した場合の基礎的な内容や影響を説明いたします。

2.投資用不動産の概要

法人が不動産投資により利益を得る方法には、一般的に二つの方法があります。
 一つ目は投資用不動産を価格の低い時に取得し、需要の変動等によりその価値が上昇した際に売却することで利益を得る、いわゆるキャピタルゲイン方式です。そして、二つ目には購入した投資用不動産を賃貸して家賃収入により利益を得る、いわゆるインカムゲイン方式があります。
 今回は、キャピタルゲイン方式とインカムゲイン方式が法人にどのような影響を与えるか説明いたします。

①キャピタルゲイン方式
 キャピタルゲインとはつまり不動産の売却により利益を得る方法です。特徴としましては、需要の変動等により不動産の価値が大きく上昇した際に不動産を売却すれば、大きく利益を得ることができるという点です。市場の変動等によりうまく利益を得ることができれば、手元にそれだけキャッシュが残ることとなり、そこからさらに大きな投資を行うといったことも可能となります。
 ただし、不動産の売却により利益を得られるかどうかは、購入時と売却時の市場の変動など不透明な部分が多く、タイミングを誤れば逆に大きな損失を被る可能性があります。売買を繰り返して利益を得るためには専門的な知識が必要で投資に失敗するリスクが高く、近年売買により利益を得ることに代わり、相場の変動が少なく毎月経常的に利益を得ることができるインカムゲイン方式が現在の不動産投資の主流となっております。

②インカムゲイン方式
 先ほど説明させていただきましたインカムゲインを目的とした不動産の投資は、不動産を賃貸し毎月家賃収入を得るものとなります。不動産の賃貸による収入は、売却による収入と比較すると一度に収受する金額は少額となりますが、相場の変動が少なく毎月経常的に収入を得ることができ、キャッシュフローが把握し易いといったメリットがあります。
 ただし、不動産の賃貸により毎月経常的に利益を得るには、家賃の下落や空室、家賃滞納などさまざまなリスクも有しております。

 上記に不動産投資における代表的なものを挙げさせていただきましたが、このほか不動産投資にはメリット・デメリットが多々ございますので、不動産投資は中長期的な分析が必要不可欠となります。

3.不動産投資による税務メリット

上記のように投資として収益を求めることはもちろんですが、不動産投資を行うことによってさまざまな税務メリットがございます。

①減価償却費の計上による節税
 不動産を購入した場合、取得に要した金額のうち建物にかかる部分は減価償却によって法人の損金とすることができます。一般的に減価償却費は建物の耐用年数に応じて定額法で償却されていきますが、物件によっては償却年数が著しく短くなるものも存在します。例えば、新築の木造物件では耐用年数が22年ですが、一定年数経過した中古の木造物件ですと4年で償却が可能な物件もあります。建物の比率が高めの物件であればあるほど減価償却費として計上できる金額も大きくなります。ただし、中古物件にはリスクも多くありますので、慎重に検討が必要となります。

②非上場株式の評価減
 同族会社のオーナーにとっては事業承継の問題が他人事ではないかと思います。後継者に会社を承継する際に、必ず株式の譲渡・相続・贈与を行う際の価額が問題となります。非上場株式の評価額は、類似業種比準価額と法人の純資産価額をもとに一株当たりの評価額を決めることとなります。一般的に純資産価額が大きくなると評価額も大きくなるため、株式を受け渡す際に多額の資金や納税が必要となってきます。この純資産価額ですが、もとは同じ金額であっても資産の持ち方により大きく変わってくることがあります。
 例えば法人の資産が現金一千万円のみの場合、当該法人の純資産価額はこの一千万円をベースに算出されます。一方、この一千万円で同額の不動産を取得し貸付を行った場合、一定の要件はありますが、当該法人の純資産価額はおおよそ四割から五割前後評価額を減額することができ、単純に非上場株式自体の評価額を抑える効果があります。
 不動産投資と相続税・贈与税との関わりは繋がる部分が多く、不動産を使った相続税・贈与税の節税はその効果が大きいものが多いため、不動産投資を行う際は相続税・贈与税のことも考慮しながら、行うことをお勧めいたします。

4.おわりに

今回は法人が不動産を取得した際の、基礎的な内容や影響について述べさせていただきました。法人にとって不動産を取得することは、投資目的の側面もあれば節税目的の側面もあります。ただし、メリットがあると同時にさまざまなリスクも存在しますので、購入する際には多角的に検討する必要があります。
 不動産を上手く活用すれば、安定したキャッシュフローの確保や過大な納税の削減など健全な事業基盤を構成する一つの要因ともなりえます。会社の現状と将来を見据えた上で計画的に投資を行っていくことが重要となります。

著者近影
執筆者
RSM汐留パートナーズ税理士法人
パートナー 税理士
長谷川 祐哉

埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
上場企業やIPO準備会社に対して、連結納税支援、原価計算・管理会計導入支援、会計ソフト導入支援などの高度なコンサルティングサービスを提供している。国税三法と呼ばれる所得税、法人税、相続税の3つの税務に精通。

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