収益認識基準の会計・税務上の取扱い②

収益認識基準の会計・税務上の取扱い②

1.はじめに

 2018年3月30日に、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、「収益認識基準」)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、「収益認識適用指針」)が公表され、これを受けて、平成30年度税制改正において法人税法の一部改正(以下、改正後の法人税法を「改正法人税法」)、及び2018年5月30日に法人税基本通達の一部改正(以下、改正後の法人税基本通達を「改正法基本通達」)が行われました。

 前回は収益認識基準や改正法人税法及び改正法基本通達の概要について、ご説明いたしましたが、今回から本題である、収益認識基準の下での会計上・税務上の取扱いについて論点となり得る項目を取り上げつつ、みていきたいと思います。この点、税務上の取扱いとしては、主に今回大幅に改正がなされた法人税について言及していきますが、必要に応じて、消費税上の取扱いについても併せて見ていきたいと思います。即ち、消費税については大きな改正はなく、基本的に従来通りのスタンスを維持していることから、会計・法人税との乖離が生じると懸念されており、実務上システム対応等の準備を要するなど留意すべき部分があるからです。

2.収益認識プロセスの分類

 前回ご説明した通り、収益認識基準においては、基本原則に基づいた5ステップを経て収益の認識が行われます。よって本稿でも、この5ステップを念頭に、収益認識を「収益の計上単位」「収益の計上額」「収益の計上時期」の3つのカテゴリーに分類し、各々のカテゴリー毎に論点をピックアップし、みていきたいと思います(下図参照)。

基本原則(5ステップ)

決定するもの 本稿での分類
ステップ1 顧客との契約を識別 収益の計上単位 収益の計上単位
ステップ2 契約における履行義務を識別
ステップ3 取引価格を算定 収益計上単位ごとの取引価格 収益の計上額
ステップ4 契約における履行義務に取引価格を配分
ステップ5 履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識 収益計上単位ごとの収益計上時期 収益の計上時期

参考:前回コラム『収益認識基準の会計・税務上の取扱い①

3.会計・税務上の取扱い【収益の計上単位】

 収益認識プロセスの中で最初の段階にある「収益の計上単位」の決定部分について、会計・税務上の取扱いを見ていきたいと思います。論点となる項目と概要を以下の表にて示した後に、個別論点について詳細をご説明します。

会計・税務上の取扱い【収益の計上単位】

カテゴリー 論点項目 会計上の取扱い 税務上の取扱い
収益の計上単位 ①契約の結合による収益計上 条件を満たす場合、複数の契約を結合し、単一の契約と見なす。 (原則)個々の契約ごとに収益計上。
(容認)会計と同様に契約の結合による収益計上。
②契約の分解による収益計上 条件を満たす場合、契約を分解して、複数の履行義務を識別 (原則)個々の契約ごとに収益計上
(容認)会計と同様に契約の分割による収益計上。
③資産の販売等に伴い、保証を行った場合 以下の③-1、③-2の区分に従って収益計上。 会計と同様。但し、製品保証引当金の計上不可。
③-1 単なる品質保証の場合 契約を分解する必要なし。将来修理費用が見込まれれば、製品保証引当金計上。 契約を分解する必要なし。但し、製品保証引当金は認められない。
③-2 保証サービスの場合 別個の履行義務として分離。 別個の履行義務として分離可。
④資産の販売等に伴い、ポイント等を付与した場合 ポイント分を引当金の繰入ではなく、対価の一部を契約負債として処理。 一定要件のもと、継続適用を条件に、会計同様の処理可。

①契約の結合による収益計上

 収益認識基準では、「契約」とは、法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取り決めをいいます。この契約については、原則として1契約ごとに「履行義務」が識別されますが、同一の顧客と同時又はほぼ同時に締結した複数の契約が、次の3つの要件のいずれかに該当する場合には、その複数の契約を結合し、単一の契約とみなして処理する必要があります(収益認識基準27項)。

契約の結合がなされる3つの要件(いずれかに該当する場合)

  1. 複数の契約が同一の商業的目的を有するものとして交渉された。
  2. 1つの契約において支払われる対価の額が、他の契約の価格又は履行により影響を受ける。
  3. 複数の契約において約束した財又はサービスが、単一の履行義務となる。

 法人税では、個々の契約ごとに収益計上することを原則としつつ、同時期に締結した複数の契約において約束した資産の販売等を組み合わせて初めて単一の履行義務となる場合には、その結合した単位にて収益計上することが可能とされています(改正法基本通達2-1-1(1))。即ち、会計と同様の取扱いが認められていることになります。

②契約の分解による収益計上

 収益認識基準では、履行義務の識別要件として以下の2つの要件を示しており、両者を満たす場合には、別個の履行義務として判断されます(収益認識基準34項)。

履行義務の識別要件

  1. 財又はサービスから単独で(あるいは顧客が容易に利用できる他の資源と組み合わせて)、便益を享受することができる。
  2. 財又はサービスを顧客に移転する約束が、契約に含まれる他の約束と区分して識別できる。

 法人税では、上述通り、個々の契約ごとに収益計上することを原則としますが、1つの契約の中に複数の履行義務が含まれている場合には、各々の履行義務ごとに収益計上することが可能とされており(改正法基本通達2-1-1(2))、会計と同様の取扱いが認められています。

③資産の販売等に伴い、保証を行った場合

 収益認識基準では、財又はサービスに対して保証を行った場合、当該保証を(ⅰ)財又はサービスが合意された仕様に従っているという保証のみの場合(品質保証)、及び(ⅱ)(ⅰ)に加えて、顧客に別途サービスを提供する保証(保証サービス)を含む場合に分け、各々について以下のように異なる取扱いがなされます。

資産の販売等に伴い、保証を行った場合の処理

処理
(ⅰ) 単なる製品保証 別個の履行義務としては識別しない。
当該保証については製品保証引当金を計上。
(ⅱ) 保証サービス 別個の履行義務として識別。
当該保証に係る収益は、保証サービスの履行時に認識。

 法人税においても、基本的に上記会計上の取扱いと同様となりますが、(ⅰ)の単なる品質保証の場合での、製品保証引当金の計上は認められないことになっています。

④資産の販売等に伴い、ポイント等を付与した場合

 収益認識基準では、企業が発行するポイントやクーポンのように、既存の契約に加えて追加の財又はサービスを取得するオプション(以下、ポイント等)を顧客に付与する場合、そのポイント等が、当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない『重要な権利』を顧客に提供するときにのみ、当該ポイント等から履行義務が生じるとされています。この場合、将来の財又はサービスが移転する時、又はポイント等が消滅する時に、収益を認識することとされており、販売代金のうちポイント等に係る額は、「契約負債」として計上することになります。また上記『重要な権利』を顧客に提供するときとは、例えば、顧客が属する地域や市場における通常の値引きの範囲を超える値引きを提供する場合が挙げられています(収益認識適用指針48項)。

 法人税でも、以下の要件を全て満たす場合には、継続適用を条件に、会計と同様の取扱いが可能とされています(改正法基本通達2-1-1の7)。

ポイントを別個の履行義務として認識する場合の条件(法人税)

  1. 付与した自己発行ポイント等が当初資産の販売等の契約を締結しなければ相手方が受け取れない重要な権利を与える。
  2. 付与した自己発行ポイント等が発行年度ごとに区分して管理されている。
  3. 法人が付与した自己発行ポイント等に関する権利につき、当該法人の責めに帰さないやむを得ない事情があること以外の理由により一方的に失わせることができないことが、規約等で明らかにされている。
  4. 次のいずれかの条件を満たすこと
    ①付与した自己発行ポイント等の定時があった場合に値引き等をする金額が明らかにされており、かつ、将来の資産の販売等に関して、たとえ1ポイント又は1枚のクーポンの提示があっても値引き等をすることとされている。
    ②付与した自己発行ポイント等が当該法人以外の者が運営するポイント等又は自ら運営する他の自己発行ポイント等で、①に該当するものと所定の交換比率により交換できることとされている。

 またポイント等について、会計及び法人税上で、ポイント相当額を契約負債として認識し、売上金額から控除した場合であっても、消費税では、課税標準=資産の譲渡等の対価の額であるため、ポイント分の影響は加味されず、同様の処理は認められません。よってPL売上高≠課税売上高となるので実務上注意する必要があります。

4.おわりに 

 今回は、収益認識基準の基本原則に基づく5ステップを、「収益の計上単位」「収益の計上額」「収益の計上時期」の3つのカテゴリーに分類し、その中の「収益の計上単位」の決定部分について、会計・税務上の取扱いをご説明しました。次回以降にて、「収益の計上額」「収益の計上時期」部分について、順に見ていきたいと思います。

著者近影
執筆者
RSM汐留パートナーズ税理士法人
パートナー 税理士
長谷川 祐哉

埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
上場企業やIPO準備会社に対して、連結納税支援、原価計算・管理会計導入支援、会計ソフト導入支援などの高度なコンサルティングサービスを提供している。国税三法と呼ばれる所得税、法人税、相続税の3つの税務に精通。

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