税制改正の今後の動向

税制改正の今後の動向

1.はじめに

 今回は、前回前々回で確認した令和4年度の税制改正大綱の主要論点を踏まえて、改正が持ち越された論点についてご紹介していきます。令和5年度には改正されると見込まれる事項や、まだ具体的な議論はなされていないような論点等、その実現可能性については様々ですが、注目のポイントをみていきたいと思います。

2.完全子法人等の配当に係る源泉徴収見直しへの影響と対応

 令和4年度の税制改正にて完全子法人等の配当に係る源泉徴収の見直しが盛り込まれていますが、それに伴い生じると考えられる影響に対する措置が今後検討されます。

 令和4年度の改正点は、「一定の内国法人が支払を受ける配当等で次に掲げるものについては、配当等に係る所得税の源泉徴収を行わないとする」というものです。

①完全子法人株式等に該当する株式等に係る配当等
②配当等の支払に係る基準日において、当該内国法人が発行済株式等の総数の3分の1超を直接に保有する他の内国法人の株式等に係る配当等(当該内国法人が名義人として保有するものに限る)

 一定の内国法人とは、内国法人のうち、下記の法人以外を言います。

  • 一般社団法人
  • 一般財団法人(公益社団法人及び公益財団法人を除く)
  • 人格のない社団等並びに法人税法以外の法律によって公益法人等とみなされている法人

 この改正によって、税収の減少が見込まれることを踏まえ、その影響を緩和するための必要な措置を令和5年度改正において検討するとしています。

3.未来への投資等に向けた経済界への期待

 企業の積極的な賃上げや設備投資を促進するため、令和4年度改正にて、賃上げに係る税制措置やオープンイノベーション促進税制の拡充等の改正が行われました。その中で法人税率の引き下げなどの措置が引き続き講じられていますが、先進各国と比較して低いと言われる日本の賃金水準の更なる底上げや投資を促進するとしています。

 方針としては、来年以降の経済界の取組み状況を見極めつつ、積極的な未来投資を行う企業に対して有効な支援を行い、十分な投資能力があるにもかかわらず活用されていない場合には、企業の行動変容を促すための措置を講じるべきかという視点からも検討を行うとしています。

 現時点では具体的な話まで落とし込まれていませんが、令和4年度の改正では収益をあげているにもかかわらず賃上げに消極的な企業に対しては特定税額控除を不適用とする措置が強化されている状況です。設備投資等に関しても、今後同様の“罰則”的な措置が講じられることも考えられるでしょう。

4.外形標準課税のあり方

 外形標準課税とは資本金1億円超の法人を対象とした法人事業税です。企業が事業活動を行う上で受ける行政サービスについて、企業規模に基づいてこれに係る費用を負担すべきであるとの考えから、給与などの支払額等法人の事業規模を表すものや資本金等の金額が課税標準となっています。

 平成16年度より導入されましたが、その後外形標準課税の対象法人の数や態様は大きく変化してきているため、今後は外形標準課税の対象法人のあり方について、地域経済・企業経営等への影響も考えながら引き続き検討が行われることになっています。また、外形標準課税の対象法人の法人事業税所得割について、年800万円以下に係る軽減税率を見直すとしています。

5.私的年金等に対する公平な税制のあり方

 老後の生活に備えるための制度として、国はつみたてNISA等の利用を促していますが、働き方によって有利・不利が生じない公平な税制を構築することが安定的な資産形成の助けとなると考えられています。

 拠出・運用・給付の各段階を通じた適正かつ公平な税負担を確保できる包括的な見直しに向けて、例えば私的年金の共通の非課税拠出枠や従業員それぞれに私的年金等を管理する個人退職年金勘定を設けるといった議論も参考にしながら、具体的な案の検討を進めていくとしています。

 また、高所得者層において所得に占める金融所得等の割合が高いことにより、所得税負担が低下する状況がみられることから、これを是正し税負担の公平性を確保するため、金融所得に対する課税のあり方を検討することが予定されています。それに際して一般投資家が投資しやすい環境を損なわないように諸外国の制度や市場を踏まえ、総合的な検討を行うとしています。

6.相続税・贈与税のあり方

 現代日本においては高齢世代に資産が偏在しているとされています。高齢化の進展によって相続による資産の世代間移転の時期もより高齢にシフトし、結果として若年世代への資産移転が進みにくいといわれています。

 これは相続税よりも贈与税の方が、基本的に税率が高く、贈与を行うと税負担が大きくなるためです。こうした背景から「生前に資産を移転させない」という選択をされることが多く、若年世代への資産移転が進まない大きな要因となっています。

 そのため、できるだけ早いタイミングで若年世代に資産を移転し、その有効活用を通じた経済の活性化が期待されています。

 そもそも贈与税が相続税よりも高く設定されているのには、相続税の累進課税回避を防止するためです。そのため、資産の再分配機能の観点からいえば、財産の分割分与を通じて高額な相続資産に対する相続税の累進負担を回避することも防止しなければなりません。

 今後は相続税と贈与税を一体的に捉えて、格差の固定化防止の視点から継続的な見直しをしていくとしています。具体的には、資産移転時期の選択に中立的な税制の構築を目指し、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方が見直されることになりそうです。

7.おわりに

 税制改正大綱は毎年12月に公表され、翌年4月に施行というのが基本のスケジュールになります。

 税制改正はコロナのような社会情勢をくみとった形で議論がなされる点が特徴の一つです。そのため、時々刻々と変化する経済状況に対応するための税制措置は時限措置であることも多くあります。今後の流れを掴んでいくことは、税制を有効活用するために必須となりますので、ご紹介した論点も含めた動向を注視していくことが重要です。

著者近影
執筆者
RSM汐留パートナーズ税理士法人
パートナー 税理士
長谷川 祐哉

埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
上場企業やIPO準備会社に対して、連結納税支援、原価計算・管理会計導入支援、会計ソフト導入支援などの高度なコンサルティングサービスを提供している。国税三法と呼ばれる所得税、法人税、相続税の3つの税務に精通。

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