ローカルベンチマークのススメ

ローカルベンチマークのススメ

1.はじめに

 地域企業の付加価値向上のためのツールとして2021年6月に経済産業省が公表したのがローカルベンチマーク(通称:ロカベン)です。自社の情報を入力すると自社の分析を行うことができるExcelを用いて、現状把握を促進するものとなっています。当該Excelは経済産業省のページからダウンロード可能です。

 元々は2015年に「ローカル・アベノミクス」を推進する施策として「中小企業団体、地域金融機関等による地域企業に対する経営支援等の参考となる評価指標・評価手法(ローカルベンチマーク)」の策定が盛り込まれ、その後の検討をふまえて公表にいたりました。

 このローカルベンチマークの従来の財務分析評価指標と異なる特徴は、財務情報だけでなく非財務情報も洗い出し、企業実態を把握するという点です。今回はローカルベンチマーク(以下「ロカベン」)の概要と活用についてまとめます。

2.知的資産経営

 企業活動において、現状や自社の強みを把握することの重要性は言うまでもありません。

 2010年代の中頃からは、インターネット活用の拡大やこれまで以上に進展するグローバル化等で世界的に変化が激化し、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取って「VUCA(ブカ)の時代」と表現されるまでになりました。
また、現状を語る上では未だ出口の見えないコロナ禍も外せません。

 未来予測が不可能になりつつある時代に、コロナ禍という突発事象が重なったことで、現状把握や自社の強みを時代に合わせてピボットすることの重要性は増し続けています。

 経済産業省では会社の強みを把握し、それを活かして業績に結びつける経営を「知的資産経営」と定義しています。「知的資産経営」のメリットとして以下が掲げられています。

  • 経営者や従業員が自社の強みに気づくきっかけになる。
  • 従業員が会社の戦略を理解することに繋がり、一体感が向上する。
  • 外部の人(金融機関・取引先・地域など)に対して会社の強みを明確に説明できる。
  • 会社の魅力と方向性を伝えやすくなり、会社のマッチする人材の確保に繋がる。
  • 後継者に会社の全容を伝えることができ、事業承継が円滑になる。

(引用:https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/locaben/pdf/kigyo.pdf

3.ロカベン~財務情報分析~

 ローカルベンチマークは3枚のシートを入力しますが、財務情報を入力するのはそのうち1枚のみです。財務情報分析は売上や営業利益などの項目を入力するだけなので、直近三期分の決算書があれば時間はほとんどかからずに作成できます。

(図①)

 上記の黄色部分に入力を行うと、自動で業種や事業規模に応じた業界基準値と比較され、評価点が算定されます。また、売上持続性、収益性、生産性、健全性、効率性、安全性については過去3期分まで推移を分析してくれます。

(図②)(経済産業省HPロカベンシート現物より抜粋)

4.ロカベン~非財務情報分析~

 ローカルベンチマークの全3枚のシートの残り2枚が非財務情報になります。入力欄の分量の違いからもローカルベンチマークでは財務情報よりも非財務情報の分析を重要視していることがわかります。実際にローカルベンチマーク活用事例では財務分析では平均よりも良いとはいえない状況であっても、非財務情報の分析により自社のストロングポイントや対応施策が明確になり、金融機関と共有ができたことで新たな資金調達を実現できた例が掲載されています。

 非財務情報は以下の【商流・業務フロー】と【4つの視点】の2枚に入力を行います。

(図③)【商流・業務フロー】

(図④)【4つの視点】

(出典:https://www.kiryucci.or.jp/saposute/download/man_01/locaben_manual.pdf

 ただし、非財務情報は客観視が難しく、経営者だけで客観的で納得感のある分析をするのはなかなか難しいものです。できれば従業員や社外専門家、金融機関担当者を交えて取り組むのが望ましいでしょう。経済産業省から公表されているローカルベンチマークガイドブック(https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/locaben/guide.html)には、他者と共に取り組む際のファシリテートのコツや企業の魅力を発掘するための対話のコツなども掲載されていますので参考になるでしょう。

5.地域経済分析

 経済産業省では自社分析の前提として、地域経済の現状把握の重要性を強調しています。事業には地域性も大きく関係するため、地域経済を考慮することでより正確に強み・弱みを分析することが可能になります。ロカベンの紹介でも、作成にあたりRESASというサイトが併用ツールとして紹介されています。RESASとはRegional Economy Society Analyzing Systemの略で、日本語では地域経済分析システムと表されます。このツールは官公庁が持っているデータだけでなく民間企業もデータを提供しており、9種のマップ・81メニューを無料で利用することができます。

 地方公共団体の地方創生支援を目的に作られたデータベースですが、民間企業でも高い利用価値のあるものになっています。こうしたツールを用いて、地域の産業構造や自社が属する産業の現状・先行きを分析することは非常に有効です。



6.おわりに

 コロナ禍によって現状維持が極めて難しくなり、改めて経済や業界把握の重要性を認識したり、新たな解決策を模索し始めたりした企業も多いかと思います。解決策と一口に言っても、業務フローや販路の見直し、新規事業創出、DXと総称されるIT活用など様々なものがあります。何から取り組むかといった優先順位の判別、策を有効に機能させるための検討においてやはり根幹となるのは正確な現状把握です。

 ローカルベンチマークは金融機関における認知度94%となっており、活用割合でも4割に上るそうです。金融庁でも担保や保証に依存せず、非財務情報を含めた事業性評価による融資を促進しているため、企業と取引金融機関との意思疎通や共有ツールとしての役割が期待されています。また、補助金等を受ける際にもローカルベンチマークで分析をしていれば申請がよりスムーズになるといったケースが今後ますます増加すると考えられます。

 これを機にロカベンを活用してみてはいかがでしょうか。

執筆者
汐留パートナーズグループ
汐留パートナーズ税理士法人
代表社員 税理士 長谷川 祐哉
埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
上場企業やIPO準備会社に対して、連結納税支援、原価計算・管理会計導入支援、会計ソフト導入支援などの高度なコンサルティングサービスを提供している。国税三法と呼ばれる所得税、法人税、相続税の3つの税務に精通。

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