経理DXを進めるために必要なこと

経理DXを進めるために必要なこと

1.はじめに

 DXという言葉が広く使われるようになり、様々な分野で“〇〇DX”の推進を促されています。経理もご多分に漏れず、これまでアナログ中心だった世界からの変革を求められています。経理を経験していない方たちからすると、「請求書や契約書をデジタルにすれば済むのでは?」と比較的容易な問題に見えるかもしれません。しかし経理は会社組織の中でもあらゆる部署、そしてその先に存在する取引先とも紐づいています。そのため、各部署や取引先への影響も考えた時、経理のDX化を進めるのは容易ではありません。そこで今回は経理DXを進めるためにどんなことが必要なのかをみていきたいと思います。

2.経理DXとは

 そもそもDXとはITやデジタル技術を活用することによって、社会やビジネスモデルに変革をもたらすことです。つまり、単に請求書をデジタル化した状態を示すのは「IT化」であり、IT化により業務プロセスが変わり、生産性が向上した状態になって初めて「DX化」といえます。

 DX化は進められるに越したことはないですが、コストや時間がかかる場合が多く、結果がすぐに出づらいため、特定の部署だけで取り組もうとしてもうまくいかないケースがほとんどです。まずは経理DXに向けて、どのようなケースが考えられるかを整理し、自社に当てはめ、何が実現可能なのかを検討することが必要でしょう。

3.経理でDX化できる業務を考える

 経理業務でDX化を進めるにあたっては以下の要素が必要になってくると考えられます。

① フロント業務系のデジタル化
② 金融機関等のシステムとの連携
③ 税務手続のデジタル化
④ 受け皿となる会計システムのデジタル化

 現在、国では国税庁等を中心として上記を整備し、見積~受注~発注~検品~請求~入金と全てを電子でやり取りし、自動で仕訳が起票されることを目指しています。見積~検品を取引先とオンライン上でやりとりしている事業者は多いかもしれません。しかし請求になると経理に納品実績と請求書データがまわってきて、経理で確認、取引先へ送付といったフローになっていて、システム上連携されていない企業も多いのではないでしょうか。これに関して2024年1月より電子帳簿等保存法に定めるものの内、一度も紙を経ることのない「電子取引」について、宥恕措置が終了したことで義務化されました。この影響で、中小企業でも電子化は少しずつ進んでいる一方、規格が統一されていないことによる問題も生じています。それぞれの企業が様々なベンダーの出すシステムを使用しているために、国の目指す一連の自動化には向かいきれていない状況です。電子インボイスの世界規格であるPeppolも普及活動が進められていますが認知度は上がっておらず、それぞれの企業間で規格が揃わず、電子化のみが進んでいる状態です。

 また、経理業務においては、入金消込に時間を取られている経理担当者もまだまだ多いのが実情です。これについてはにあるように金融機関とも連携が必要になってきます。一般社団法人全国銀行協会(全銀協)および一般社団法人全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)は2018年12月より「全銀EDIシステム」(愛称:ZEDI)を稼働させており、これを利用すれば振込に関わる取引明細情報(注文番号等)や請求書情報等の情報を振込情報として入手することができます。現在、この金融EDIの普及率は中小企業では10%前後といわれています。この金融EDIを連携可能な会計システムを導入することによって入金消込まで自動にすることが可能です。

4.税務関係でDX化できる業務

 前項の冒頭で上げた4つの業務のうち、③税務手続のデジタル化については、国税側も徐々に納税環境のIT化を進めていることから、比較的取り組みやすい分野ではないかと思われます。

1.e-Taxとキャッシュレス納付

 e-Taxについては既に導入されている企業も多いでしょう。合わせてキャッシュレス納付も推進していますが、こちらは納付件数全体の約3割にとどまっています。キャッシュレス納付にも以下のようにいくつか種類があるので、自社に合った方法を選ぶことができます。

振替納付 振替納税の申込をしておき、毎年の確定申告を口座引落する
ダイレクト納付 ダイレクト納付の申込をしておき、e-Taxから簡単な方法で口座引落する
インターネット
バンキング
インターネットバンキングから振込する
クレジットカード納付 「国税クレジットカードのお支払いサイト」から納付受託者に納付を委託する
スマホアプリ納付 「国税スマートフォン決済専用サイト」から納付受託者に納付を委託する

2.年末調整の電子化

 また、年末調整も経理にとって負担が大きい業務の一つですが、従業員から提出してもらう申告書についても一定条件の下、電子化が認められています。導入時は従業員への説明等に工数がかかるかもしれませんが、導入が完了すれば従業員側の負担も軽減されますし、経理側にとっても事務負担が大きく軽減されるのではないでしょうか。

源泉徴収関係書類で電磁的提供が認められているもの

(1)給与所得者の扶養控除等申告書
(2)従たる給与についての扶養控除等申告書
(3)給与所得者の配偶者控除等申告書
(4)給与所得者の基礎控除申告書
(5)給与所得者の保険料控除申告書
(6)給与所得者の住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除申告書
(7)「所得金額調整控除申告書
(8)退職所得の受給に関する申告書
(9)公的年金等の受給者の扶養親族等申告書

3.その他

 税金関係の処理は複雑であり、法人・個人を問わず様々な場面で疑問点が生じると思います。個人事業主の方は特に、税務署への質問に対し、心理的ハードルが高いという方も多いと思います。そのような場合に利用しやすいのがチャットボット(ふたば)です。AIの自動回答システムにチャット形式で納税に係る質問をすることが可能なシステムで、有人ではありませんが、所得税・消費税・インボイス制度についての質問に対応しています。

5.既存の会計システムを活用できる業務を検討する

 最近のクラウド会計システムには様々な機能が標準で装備されていますが、それをフル活用しているという事業者は少ないのではないでしょうか。以下は多くのソフトで装備されているものの、有効活用できていないことが多い機能の一例です。

・予実管理
・経営分析月次推移表
・月次比較表
・クレジット・銀行等各種サービス自動連携
・仕訳自動作成
・決算書作成
・稟議/ワークフロー

 予実管理や月次推移表等は、ものによってはボタン一つで出力できるにも関わらず、わざわざExcelで作成している会社も少なくないと思います。またクレジットカードや銀行口座との連携もほとんどのクラウド会計システムに装備されています。仕訳についても決算整理仕訳や、毎月決まって計上される定型仕訳などを自動で登録することができるでしょう。決算書についてもwordを利用して作成されているケースもあるかと思いますが、財務諸表注記や付属明細書を含め会計システムで作成でき、ある程度カスタマイズできるシステムがほとんどです。始めの設定は多少手間がかかるかもしれませんが、うまく業務が効率化されれば、掛ける価値のある手間と言えるでしょう。

 慣れてくると決まった機能しか使わなくなってしまいますが、今一度どのような機能が装備されているかチェックしてみてはいかがでしょうか。

6.おわりに

 今回は遅れているといわれる経理DXについて解説しました。経理だけで進められないこともありますが、まずは経理だけで進められる事、他に協力が必要な場合はどの部署にどのような協力を仰がなければならないかを整理することで、少しでも経理業務の効率化が進められればと思います。

著者近影
執筆者
RSM汐留パートナーズ税理士法人
パートナー 税理士
長谷川 祐哉

埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
上場企業やIPO準備会社に対して、連結納税支援、原価計算・管理会計導入支援、会計ソフト導入支援などの高度なコンサルティングサービスを提供している。国税三法と呼ばれる所得税、法人税、相続税の3つの税務に精通。

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