ノマドワーカーの普及と我が国の施策について

ノマドワーカーの普及と我が国の施策について

1.はじめに

 新型コロナウイルス感染症のもたらした社会的変化の1つに、リモートワークの普及があげられます。リモートワークの普及により、世界中をノマド(遊牧民)のように旅をしながらIT技術を活用して仕事をする、いわゆるノマドワーカー(以下、「デジタルノマド」という)が誕生しました。新聞報道によるとデジタルノマド人口は3500万人以上とされ、市場規模は約110兆円にものぼるという海外調査があります。今回はデジタルノマドにまつわる国内外の動向をまとめます。

2.デジタルノマドに対する各国の動き

 デジタルノマドは滞在している国に対して、多くの経済効果がもたらされるとされています。これは、旅費をはじめ、滞在中の衣食住等の滞在費、その他観光や医療機関の利用などが含まれます。

 こうしたことから自国にデジタルノマドを誘致する動きが、各国で活発になっています。2021年2月時点でデジタルノマドビザを導入している、または準備中の国は21か国でしたが、2023年6月には58か国となり、大幅に増加しています。代表的な国をあげるとイタリア、スペイン、ドイツ、ポルトガル、マルタ、オーストラリア、タイ、メキシコ、台湾、ドバイ(UAE)など、観光国としても有名な国が多い印象です。ほか、南米ではブラジル、コロンビア、コスタリカなどがあります。

 それぞれの国のデジタルノマドビザの共通点として挙げられるのが収入と医療保険です。滞在国における平均年収よりも高い収入があることが求められ、医療保険への加入も義務付けられています。また滞在できる日数は各国でばらつきがあり、アジアで目立つのはインドネシアの最大60か月でしょう。また税金の扱いも各国ばらつきがあります。

 こうした中、日本の動向に注目が集まっていました。国際的な市場調査会社であるユーロモニターインターナショナルが公表する「2023年トップ100都市デスティネーション・インデックス」において、4位の東京、16位の大阪を擁する日本において、デジタルノマドの扱いが注目されていました。このレポートは観光都市としての魅力を総合評価したものではありますが、デジタルノマドとして働く人が「ワーケーション」的に働くことも多いことから、デジタルノマドの誘致と大きな関係があるとされています。

3.日本のデジタルノマドビザについて

 法務省は、出入国管理及び難民認定法の一部を改正し、2024年4月1日から国際的なリモートワーク等を目的として日本に滞在する者及びその配偶者・子に対して「特定活動」という在留資格(デジタルノマドビザ)を創設、施行することとなりました。日本のデジタルノマドビザの要件はについて、要旨を確認します。

① 査証免除対象である国・地域かつ租税条約締結国・地域の国籍者であること
② 申請時に年収が1000万円以上であること
③ 医療保険に加入していること
④ 滞在期間が6カ月を超えないこと

 ①の査証免除国・地域とは、アメリカなどビザを必要とせずパスポートだけで観光や商用の目的で短期滞在できる国・地域で、租税条約とは二重課税の排除や租税回避の防止などを目的に条約を締結した国・地域のことです。②は申請時に年収が1000万円以上必要という収入要件で、海外の機関から報酬を得ているという前提です。

 ③は滞在予定期間をカバーする死亡、負傷及び疾病に係る海外旅行傷害保険等の医療保険に加入していることで障害疾病への治療用補償額は1000万円以上必要です。④は滞在期間を6か月として更新は認められません。これは各国のデジタルノマドビザと比べると長くはない期間です。

 また所得税などの税金については租税条約でどのような取り決めになっているのかの確認をしなければなりません。配偶者・子に関しては査証免除国・地域の国籍者であることと③と同様の医療保険に加入していることが必要です。

4.デジタルノマドビザの申請の方法

 デジタルノマドビザの申請の方法は大きく分けて2つあります。1つは来日して直接出入国在留管理局で特定活動(デジタルノマド)の在留資格認定証明書交付申請する方法です。在留資格認定証明書が交付されたら自国の住居地を管轄する日本大使館又は総領事館で査証申請を行い日本に入国するパターンです。もう1つは自国の居住地を管轄する日本大使館又は総領事館で直接査証申請を行うパターンです。

 デジタルノマドビザが施行されてからまだ間もなく、運用が確立しておりませんが現時点ではこの2つのパターンとされております。1つ目のパターンはあきらかに負担が大きいため、今後2つ目のパターンが主流になると考えられます。しかし、2つ目のパターンでも「時間が掛かりやすい」という面があります。

 一般的に、海外在住者が在留資格を取得して日本に入国するフローとしては、日本の出入国在留管理局で在留資格認定証明書交付申請を行い、その後、海外の日本大使館又は総領事館で査証申請を行う必要があります。この場合、日本国内で審査を一度行っている分、海外の日本大使館又は総領事館での申請は一般的に5営業日ほどで審査が終了します。ですが、前述の2つ目のパターンでは、日本の出入国在留管理局での審査が行われていない分、海外の日本大使館又は総領事館での審査に時間がかかる可能性が高いと言えるでしょう。

5.おわりに

 すでに東京をはじめ、各都市がデジタルノマドの誘致にのりだしています。総務省が4月12日公表した2023年10月1日時点の人口推計によると日本人は83万7千人減少しています。高齢化も進み、働き手の確保が重い課題となっております。こうした中、人手不足の分野の問題解消するため「特定技能」という制度を創設し、また技能実習をあらたに育成就労制度にするなど外国人材を受け入れる体制はますます進んでおります。一方で、解決を待つ外国人にまつわる諸問題もあることから、外国人材の受け入れを検討する際には、在留資格等に関する動向を確認していく必要があるでしょう。


執筆者
RSM汐留パートナーズ行政書士法人
行政書士
景井 俊丞

2007年2月、行政書士・司法書士・土地家屋調査士の合同事務所に入所。建設業、宅建業などの許認可に携わるとともに申請取次行政書士として外国人の在留資格に係る申請を年間300件超以上を行う。独立を経て2019年1月にBIG4の行政書士法人にシニアとして入社。外国人の在留資格に関する品質管理や取次、社内教育を行うとともに、許認可を担当。在留資格においてはオリンピック、ラグビーワールドカップ関連を担当。2020年11月にRSM汐留パートナーズ行政書士法人に加入。2021年7月、RSM汐留パートナーズ行政書士法人代表社員に就任。行政書士。

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