1.はじめに
前回から引き続き、中小企業が活用できる固定資産関連の税制優遇措置について解説します。今回は、前回も軽く触れた中小企業投資促進税制と中小企業経営強化税制について詳しくご紹介します。
2.創設の背景
細かなルールを確認していく前に、それぞれの制度が創設された背景を押さえておきましょう。まず中小企業投資促進税制は租税特別措置法を根拠として、中小企業の設備投資を促進することを目的に創設されました。日本では中小企業が全企業数の 99.7% を占め、 約70%の雇用 と 付加価値の過半数 を担っている一方、生産性は大企業に劣り、設備投資も老朽化への「維持更新」が中心で、質や効率の向上につながる積極的な投資が不足していた社会的背景がありました。
一方、中小企業経営強化税制は平成29年度(2017年度)の税制改正により新たに創設された制度であり、中小企業投資促進税制と比較して新しい措置になります。この税制は「中小企業等経営強化法」に基づいており、単なる設備投資の促進にとどまらず、経営改革を伴う投資を支援するものであり、政策的には中小企業の中長期的な成長を後押ししようとする明確な方向性が示されています。
3.中小企業投資促進税制と中小企業経営強化税制の比較まとめ
両税制の対象となる法人や対象資産、措置内容をまとめると以下のようになります。このように、両制度はそれぞれ微妙な違いがあります。詳細は次項からみていきますが、方向性の目安としては以下のとおりです。中小企業投資促進税制は、事前準備の時間が取れない場合や、事務負担を軽減したい場合に購入予定資産が対象資産に該当するのであれば適用を検討すると良いでしょう。もし、事前に十分な準備期間がある場合は、中小企業経営強化税制を選択した方が対象資産の範囲も広く、より高い節税効果が期待できます。
比較項目 | 中小企業投資促進税制 | 中小企業経営強化税制 |
---|---|---|
対象法人 | ・中小企業者等(資本金1億円以下の法人、農業協同組合、商店街振興組合等) ・従業員数1,000人以下の個人事業主が対象 |
・中小企業者等(資本金1億円以下の法人等)で、中小企業等経営強化法による「経営力向上計画」の認定を受けた事業者 |
対象資産 | ・新品の機械装置(単価160万円以上) ・測定工具・検査工具(単価120万円以上、または単価30万円以上かつ合計120万円以上) ・ソフトウェア(単価70万円以上または合計70万円以上) ・貨物自動車(車両総重量3.5トン以上)* 内航船舶(取得価格の75%が対象) |
・新品の生産等設備を構成する機械装置、工具、器具備品、建物附属設備、ソフトウェア。 すべて所定の最低取得価額あり: — 機械装置:160万円以上 — 工具・器具備品:30万円以上 — 建物附属設備:60万円以上 — ソフトウェア:70万円以上 ※貸付用資産、中古資産、特定のソフトウェア(開発研究用、サーバー用OSなど)は除外 |
措置内容 | 以下から選択※ただし資本金3,000万円超の法人は税額控除不可(特別償却のみ) ①特別償却:取得資産の30%を費用として即時計上可能 ②税額控除:取得価格の7%(資本金3,000万円以下の中小企業が対象)を法人税から控除可能 |
以下から選択 ①即時償却:取得費用をその年度に全額経費として計上可能 ②税額控除:取得価格の10%(資本金3,000万円未満)または7%(資本金3,000万円超1億円以下)を法人税から控除可能 |
4.対象法人
ではそれぞれの要素をもう少し細かくみていきましょう。対象法人については、いずれの制度も”中小企業者等”である点は基本的に共通しています。大きく異なるのは経営力向上計画の認定を受けたか否かという点です。経営力向上計画と聞くと、難しそうで構えてしまうかもしれません。しかし中小企業庁が代表的な業種ごとに記載例を例示してくれていますので、それに沿って一つずつ自社の状況に置き換えていけば専門家に依頼せずとも作成することは可能です。また、作成の手助けとなるツール(ローカルベンチマークツール)も提供されていますので、ぜひ活用していただきたいです。
5.対象資産
中小企業投資促進税制の対象資産は上記の表の通りと考えていただければ良いと思います。中小企業経営強化税制も上表の通りですが、申請の類型にはA、B、D型とありますが、B型で売上高100億円以上を目指す中小企業については令和7年度の税制改正により、合計額1,000万円以上の建物及び附属設備という区分が追加されました。一方、令和6年度まで存在したC型(デジタル化設備)は令和7年度の税制改正により対象外となりましたのでご留意ください。
6.適用要件
中小企業経営強化税制には、類型がA、B、D型、そしてB型で売上高100億円以上を目指す中小企業向けのB拡充型がありますが、それぞれ適用要件も異なりますのでご紹介いたします。
項目 | A類型 (生産性向上設備) |
B類型 (収益力強化設備) |
B類型拡充型 (収益力強化設備) |
D類型 (経営資源集約化設備) |
---|---|---|---|---|
適用 要件 |
・生産性が旧モデル比で年平均1%以上改善に寄与する設備 ※生産効率等の指標は単位時間当たり生産量、歩留まり率又は投入コスト削減率のいずれか ・対象資産の販売開始期間が以下のもの 機械装置:10年以内 工具:5年以内 器具備品:6年以内 建物附属設備:14年以内 ソフトウェア:5年以内 |
・投資利益率が年平均7%以上向上に寄与する設備 | ・売上向上の施策(設備投資含む)ロードマップの作製 ・売上高100億円超を目指すための事業基盤、財務基盤及び組織基盤の整備 ・基準事業年度の売上高が10億円超90億円未満 ・売上高100億円超及び年平均10%以上の売上高成長率を目指す投資計画 ・投資利益率年平均7%以上 ・2年以内に導入予定の設備の取得価額の合計額が、1億円と基準事業年度の売上高の5%相当額とのいずれか高い金額以上である ・売上高の伸長に貢献する設備 ・生産性の向上に資する設備の導入に伴い建物及びその附属設備の新設又は増設をするもの ・投資計画中において、給与を増加させるものであること |
・修正ROAまたは有形固定資産回転率が一定割合以上の投資計画に係る設備 |
B類型拡充型については適用要件が厳しいですが、その分節税影響も大きくなります。
7.おわりに
前回から2回にわたって中小企業が活用できる固定資産まわりの税制優遇措置をご紹介しました。年末が近づくと税制改正の議論が活発になり、今回ご紹介した税制もいつ変更があるかわかりません。こちらのコラムでも随時、情報発信していきたいと思います。