インボイス制度“第二フェーズ”へ ~中小企業がいま備えるべき現実的対応~

インボイス制度“第二フェーズ”へ ~中小企業がいま備えるべき現実的対応~

1.はじめに

 インボイス制度の施行から1年以上が経過し、2025年に向けて「緩和措置の段階的縮小」が本格的に影響を及ぼし始めています。特に、免税事業者との取引に関する仕入税額控除の割合が、2023年から2029年にかけて段階的に逓減していく制度設計は、中小企業のキャッシュフローに静かな圧力をかけつつあります。制度開始当初は経過措置によって影響が緩和されていたこともあり、表面的な混乱は限定的でしたが、2024年以降は実効的な税負担増として顕在化してきました。

 今回はインボイス制度が実際に及ぼした影響とその対応について考えます。

2.インボイス制度の経過措置とその影響

 企業やお店は、最終的に国に納める消費税額は、以下の式で計算します。

納める消費税 = ①売上で受け取った消費税 – ②仕入で支払った消費税

 インボイス制度は、この計算式のうち、特に②仕入で支払った消費税を計算する場面で、「この仕入れは本当に消費税が正しく課税された取引か」を、「適格請求書(以下、インボイス)」という証拠書類を使って、今まで以上に厳しくチェックする仕組みです。インボイスを発行しない免税事業者からの仕入は、②仕入で支払った消費税に含めることができません。この結果、「受け取った税金」と「支払った税金を引く行為」の対応関係が、より明確かつ厳密になります。

 もっとも、適格請求書(インボイス)を発行しない事業者からの仕入れについて、ただちに仕入税額控除の適用を全額認めないとすると、取引への影響が甚大になります。そのため、免税事業者からの課税仕入れに対する仕入税額控除については、一定期間、その一部の控除を容認する経過措置が講じられています。ただし、この経過措置は下表のとおり段階的に縮小されていきます。こうした段階的措置により、免税事業者との取引比率が高い業種では、実質的に納税額が増加していくことになります。

期間 割合
令和5年10月1日から令和8年9月30日まで 仕入税額相当額の80%
令和8年10月1日から令和11年9月30日まで 仕入税額相当額の50%
令和11年10月1日から 0%

3.実務上の影響

 経理実務における負担も増大しています。免税事業者と課税事業者のインボイスの振り分けや、10%・8%の税率区分ごとの管理が必要となり、会計ソフトが対応を進めているとはいえ、取引分類やインボイス番号の確認、発行者の課税・免税ステータスのチェックといった作業は確実に増えています。特に中小企業では「一人経理」のケースが多く、属人的な入力・確認作業が制度によって一層複雑化しているのが実情です。さらに、経過措置における控除率の変動は9月30日を基準として生じるため、9月決算以外の企業では期中に控除率が変動する点にも注意が必要です。

 特に影響が大きいのは、業務委託や外注比率の高いサービス産業、フリーランスとの取引が多いクリエイティブ産業、小規模事業者が多い地域の建設・修繕・清掃業などです。これらの業界では免税事業者のインボイス登録率が依然として低く、課税事業者側に負担が偏る状況が固定化しつつあります。その結果、制度開始直後にはあまり見られなかった「取引条件の見直し」「価格交渉」「契約形態の変更」などが、経過措置の縮小が進むタイミングで増加していると指摘されています。

4.中小企業における対象

 では、中小企業はどのように対応すべきでしょうか。第一に、取引先との関係性を踏まえた契約・価格設定の見直しが不可欠です。特に長期契約の場合、2029年の完全控除停止を見据えた中期的なシミュレーションを行うことが求められます。第二に、経理業務のデジタル化を前提とした運用体制の再構築です。インボイス制度は紙ベースでも運用可能ですが、紙・PDF・メール・電子請求書が混在する環境では管理負担が急増します。電子帳簿保存法の実務対応が並行して進むなか、証憑管理の標準化とシステム連携は避けて通れません。その結果、経理部門にはより高度な判断を担う“管理会計寄りの機能”へのシフトが求められています。第三に、消費税納税資金を確保するためのキャッシュフロー管理の強化が挙げられます。インボイス制度は「消費税を預かって納める」という原則をより厳格化するものであり、高収益かどうかに関わらず納税負担が増えるケースがあります。売上と仕入のタイミングのずれ、外注比率の高さ、非課税売上の有無によって納税額は大きく変動するため、月次での試算と納税資金の積立の重要性が一段と高まっています。

5.おわりに

 インボイス制度の影響は、制度そのものよりも、むしろ「対応の遅れ」によって企業の負担が増幅される点にあります。経過措置が縮小していくこれからの数年は、中小企業にとって制度の“第二フェーズ”とも言える重要な局面です。取引先との力関係や慣行に配慮しつつも、契約・価格設定、経理体制、キャッシュフロー管理を中期的な視点で再設計することが、結果として自社の持続力を高めます。制度変更そのものは避けられませんが、その影響を最小化する手段は企業側の工夫次第で十分に見出せます。環境が変わるときこそ、業務の見直しや仕組みづくりを進める好機と捉え、2029年以降の安定した経営基盤を今から整えていくことが求められています。

著者近影
執筆者
RSM汐留パートナーズ税理士法人
パートナー 税理士
長谷川 祐哉

埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
上場企業やIPO準備会社に対して、連結納税支援、原価計算・管理会計導入支援、会計ソフト導入支援などの高度なコンサルティングサービスを提供している。国税三法と呼ばれる所得税、法人税、相続税の3つの税務に精通。

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