中小企業も対象に!パワハラ防止法に基づく組織が取るべき対策

中小企業も対象に!パワハラ防止法に基づく組織が取るべき対策

令和4年4月から中小企業もパワハラ防止法の対象に

 令和2年6月1日に改正労働施策総合推進法、通称パワハラ防止法が作られ改正法は大企業においては令和2年6月1日から、中小企業においても令和4年4月から施行されることになりました。パワハラ対策、セクハラ対策を行うと、コミュニケーションが良くなり誤解なども減ります。そして、仕事が効率的になり、生産性も高まります。また、イノベーションも生まれやすくなります。ハラスメント対策はプラスの要素が多くあるのです。
 13年間様々な組織においてハラスメント対策支援をしてきた講師が、わかりやすく実践的な対応を講演しました。

柳原 里枝子 氏
 講師ご紹介 
株式会社ハートセラピー 代表取締役
厚生労働省 ハラスメント対策企画委員
経営学修士
柳原 里枝子 氏

■現職
株式会社ハートセラピー代表取締役
■所有資格
看護師・産業看護師・公認心理師・産業カウンセラー・認定心理士
第1種衛生管理者・MBA(経営学修士)
ハラスメントコンサルタント・人権教育啓発アドバイザー

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パワハラの現状

精神障害に関する事案の労災補償状況

 こちらは精神障害に関する事案の労災補償状況です。令和2年度が最新データです。支給決定件数は608件で、上司からの嫌がらせが99件で1位、同僚同士の嫌がらせが71件で3位となっています。

精神障害に関する事案の労災補償状況

講演資料:「中小企業も対象に!パワハラ防止法に基づく組織が取るべき対策」より

被害者は中間管理職が多い

 2020年の全国就業実態パネル調査によると、中間管理者が被害者として最も多いと発表されました。大企業では係長級、中小企業では課長級の方が被害者になりやすいようです。皆さまの会社はどうでしょうか。中間管理職は責任が重くなるけれども、部長や役員ほど裁量権がありません。また、調整役としての仕事も多いため対人関係が増え、ストレスも抱えやすい。そのため、パワハラを受けやすいのではないかといわれています。

パワハラ対応キーマンは上位職

 パワハラを受けたと感じた相手の役職の割合は、やはり経営者や役員が一番大きくなっています。経営者や役員が日頃パワハラをしていると、部長も同じように課長に行い、課長も係長に行い、というように次第にパワハラが下位職に波及していきます。上位職の方はご自身を振り返って、気を付けていただきたいです。

パワハラ対応キーマンは上位職

講演資料:「中小企業も対象に!パワハラ防止法に基づく組織が取るべき対策」より

パワハラが起きやすい組織(職場)とは

 2020年全国就業実態パネル調査結果と厚生労働省の発表、また私がパワハラに関する研究や過去の論文などを調べた結果から、ここに書いてあるような職場でパワハラが起きやすいということが分かっています。ただし、このような職場だからパワハラがあっても仕方がないということではありません。このような職場であってもパワハラが起きないようにする方法がありますので、後ほど見ていきたいと思います。

パワハラが起きやすい組織(職場)とは

講演資料:「中小企業も対象に!パワハラ防止法に基づく組織が取るべき対策」より

パワハラが起きにくい組織(職場)とは

 調査研究では、男女や、さまざまな世代がバランスよくいる職場ではパワハラは減るとあります。ただ、バランスが取れているだけでは不十分です。社員同士がお互いの違いを認め、人として尊重し合うという職場風土であることが大事です。また、心理的安全性が確保されている職場はパワハラが減るとあります。他にも、評価が明確で納得性があると、パワハラを受け止める許容度が上がるようです。

「防止」から「予防」へ

パワーハラスメントおよび企業が講ずべき措置

 パワハラを起こさないことも大事ですが、それ以前にパワハラが起きないような組織づくり、職場づくりをして予防することがとても大事です。

 パワハラ防止法においてパワハラという言葉が定義づけられました。「職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(優越的な関係)を背景としている」「業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える」、「労働者の職場環境を悪化させる行為」の3つの要素全てを満たす言動が、職場におけるパワハラとなります。

パワハラ防止法のポイント

 パワハラ防止法は、パワハラだけでなくセクシャルハラスメントなどについても予防対策が強化されました。また、自社の社員が取引先や関連会社、お客様のところなどの外部でセクハラをした場合も、事実確認への協力を努力義務とすることが加わっています。

事業主が雇用管理上講ずべき措置

 こちらは厚生労働省のホームページなどにも載っていますが、事業主が雇用管理上講ずべき措置となります。1つ目は「事業主の方針等の明確化およびその周知・啓発」です。職場においてパワハラは許されないということを就業規則などに書いて、方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発します。そして、職場におけるパワハラに係る言動を行った者に対しては、厳正に対処する旨、方針および対処の内容を就業規則に書き、周知します。就業規則とは別にハラスメント規定を作ってもいいでしょう。

 2つ目は「相談体制の整備」です。社内相談窓口をつくって、周知します。さまざまな組織に行きますと、相談窓口があることすら知らないということがあります。そこで、私がお勧めしたいのは、社内にポスターを貼って掲示することです。視界に入る場所にあることで、パワハラの抑止・防止にもつながります。

 窓口の相談員になった担当者が、相談に対して適切に対応できないと、二次被害が広がります。相談員になった方に対しては、相談対応に関する研修会に参加させるなど、組織として取り組んでください。

 3つ目は「職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応」です。事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること。相談者から話を聞いた後は、被害者の同意を得てから、行為者、加害者と言われる人に話を聞くようにしてください。同意もなしに話を聞くと守秘義務違反になります。そして、公正な目でしっかりと対応することが大切です。加害者と言われる人を初めから加害者扱いしないようにお願いします。

 加害者が事実を認め、パワハラが生じた事実が確認できたら、被害者に対する配慮のための措置を速やかに適正に行います。ケース・バイ・ケースですが、例えば被害者と加害者の座席を離す、職場を少し離す、どちらかを在宅ワークにするなどの対応が考えられます。もし、被害者が同じ職場で働けないと言った場合には、基本は加害者が異動することになります。そして、なるべく迅速に、職場におけるパワハラに関する方針を周知・啓発するなどの再発防止対策措置を講じます。例えば、行為者が会社にとって優秀で必要な人材だからといって甘い措置をすれば、また他の人が被害に遭うかもしれません。曖昧に対処することで、後からいろいろな問題が起こることもあります。

 4つ目は、1から3までの措置と併せて講ずべき措置として、プライバシー、守秘義務をしっかりと守るようにお願いします。相談員や人事部には集団守秘義務があるため、メンバー内で連携するのは構いませんが、相談員は相談内容を他の人に話してはいけません。また、連携を取るときも被害者の同意を得てからです。

 また、被害者が相談してきたことを理由に不利益なことはしないようにお願いします。相談したことによって、働きづらくなったり評価が下がったりという不利益を受けないことを伝えていくことで、誰もが少し困った段階で相談できるような状況をつくることができます。これはとても大切です。

予防のために

予防策のヒント

 ハラスメントが起きやすい職場の特徴として、上司と部下のコミュニケーションが少ない、失敗が許されない、などがあります。そのため、対策としては、職場の中で上司部下の円滑なコミュニケーションを浸透させることで、業務効率化を図るようにします。日常の対話や、報告・連絡・相談、承認、あいさつの基本を職場で愚直に実行することが大切と考えます。

 私が最近行った研究では、パワハラが多いと言われる業務であっても、上司からの「承認」があればパワハラが起きづらいということが分かりました。承認とは存在を認めることで、あいさつや感謝の気持ちを伝えることも承認です。パワハラの加害者の方たちとお会いしていると、承認ができていないという共通点があります。上司が率先して承認行動をしていると、同僚同士の承認行動も増えるといわれています。生産性を高めるためにもぜひ「承認」に取り組んでみてください。

パワハラ予防策のヒント1

講演資料:「中小企業も対象に!パワハラ防止法に基づく組織が取るべき対策」より

 厚生労働省の令和2年度の調査結果では、パワハラと知った後の勤務先の対応として何も対応しなかった割合は47.1%、ハラスメントの認定であった、なかったも判断せずに、曖昧な対応で済ませてしまった割合が59.3%と、残念な結果が出ています。これらの対策として、相談・対応の体制をしっかりつくっていくということが大事です。

 パワハラも法制化されて、企業ではハラスメント相談窓口が整備されつつありますが、相談員の方から適切な対応方法が分からないという声を聞きます。相談窓口をつくったら、しっかりと学ぶ機会を設けていただきたいと思います。そして予算があるようなら、窓口を複数設けてください。内部の相談員の窓口、健康管理室の看護師が相談員を兼ねる窓口、外部の相談窓口などです。複数の窓口があることで相談者は選ぶことができます。外部の相談窓口としては、カウンセラーや弁護士、社労士にお願いすることが考えられます。理想は全ての窓口を用意するのがいいのですが、難しい場合はカウンセラーなど心の専門家にお願いするのがお勧めです。

講演資料:「中小企業も対象に!パワハラ防止法に基づく組織が取るべき対策」より

予防施策はSDGs目標8に通じる

 ハラスメント対策はSDGsの8番目の目標「働きがい」に該当します。職場のハラスメント対策は働きがいやダイバーシティにも通じますし、SDGsにも通じます。ぜひ全社的に取り組んでみてください。

予防施策はSDGs目標8に通じる

講演資料:「中小企業も対象に!パワハラ防止法に基づく組織が取るべき対策」より

日々の積み重ねが風土を変える

 これまで見てきたコミュニケーションを良くする、職場環境を良くするなどの活動は、すぐに効果が出るものではありません。長く続けることで、地道に効いてくるのです。組織として経営施策に取り入れて、風土を変えていくことが必要です。職場や組織の活性化を進めていくことで、おのずとパワハラ対策になるのではないでしょうか。

日々の積み重ねが風土を変える

講演資料:「中小企業も対象に!パワハラ防止法に基づく組織が取るべき対策」より

柳原 里枝子 氏
 講師ご紹介 
株式会社ハートセラピー 代表取締役
厚生労働省 ハラスメント対策企画委員
経営学修士
柳原 里枝子 氏

■現職
株式会社ハートセラピー代表取締役
■所有資格
看護師・産業看護師・公認心理師・産業カウンセラー・認定心理士
第1種衛生管理者・MBA(経営学修士)
ハラスメントコンサルタント・人権教育啓発アドバイザー
■略歴
都内大学付属病院集中治療室、外科病棟勤務および大手製造業での健康管理室勤務を経て2008年起業、現在はセミナー講師を務める傍らハラスメントやメンタルヘルス対策コンサルティングを行う。働く世代へのセルフケア面談や職場環境改善支援も行う。
・全省庁ハラスメント相談員育成研修講師・総務省消防庁ハラスメント対策WG委員
・公務職場におけるパワーハラスメント防止対策検討会委員
・厚生労働省 ハラスメント対策企画委員 シンポジュウムファシリテーター
・内閣府「政治分野におけるハラスメント防止研修教材」等の作成に関する検討会委員
■メディア
TBSニュース23にて「セクシュアルハラスメント」についてインタビュー主演
フジテレビグッディにて「セクシュアルハラスメント」についてインタビュー
NHK「新型うつ」特集、「ハラスメント対策特集」にて研修風景とインタビュー数回
TBSラジオ生ワイド「小島慶子キラキラ」にて「ストレス対策および職場のハラスメント」
■執筆
「主任&中堅+こころサポート」「ナースマネージャー」「主任看護」日総研出版
介護職雑誌「相談援助&マネジメント」にてパワーハラスメント対策を連載 
「企業実務」にてメンタルヘルスについて連載       日本実業出版
「見直そう、あなたの会社のセクハラ・パワハラ対策」  (株)清文社
「管理者の為のメンタルヘルスマネジメント」       商工中金経済研究所
「解決志向によるハラスメントを起こさない職場づくり」 (株)清文社
「知ろう!防ごう!職場のセクハラパワハラモラハラ対応」 (株) 清文社
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