企業力を高めるデータ分析とは

中小企業診断士
ITコーディネーター
星野雅博氏

企業力を高めるデータ分析とは

皆さんが持っている小さくても魅力的なデータを「価値ある情報」に変換して活用することがデータ分析の本質です。ビジネス上の課題があって、仮説を立てて、具体的なデータを探し出して、どのように整理していくか。表をつくったり、グラフを並べたり、時系列で見たり、バラしたりします。そこから具体的な「知識」を見つけていきます。つまり、知識(Knowledge)から知恵(Wisdom)への変換、これがイノベーションにつながるわけです。
データ分析は、「データ」を収集、整理・加工してまとまった「情報」とし、分析・評価・解釈を行い、「知識」にして、「知恵」 を生みます
企業力をもっと高めるために、手元にあるのに意外と見過ごしている情報(データ)を使って魅力的な情報・知識・知恵を手に入れませんか。

 目次 

1.データ分析の概要
 1.1 最近のビッグデータ騒ぎは何だろうか(中小企業も使えるの?)
 1.2 データ分析の考え方
 1.3 データ分析はデータの「見える化」
 1.4 ビジネス・インテリジェンス環境(データベースと分析ツール)
 1.5 適材適所でのBIツールの導入
2.データ分析用のデータベース構造(データ統合例)
3.ケーススタディで分析を考える① 商品の品揃えはどのように決めるか?
 3.1 比較して考え
 3.2 分けて考える(出荷日数から見た在庫範囲の決定、品揃えの検討~クロス集計表の作成~)
 3.3 比較的よくつかわれているクロス集計表の例 (得意先別個別商品マトリックス)
4.ケーススタディで分析を考える② どの商品、顧客に経営資源を集中させるか?
 4.1 バラつかせて、分けて考える (利益率から見た取扱品目の検討~散布図の作成~)
 4.2 度数分布(ヒストグラム)と散布図を組み合わせた使い方
 4.3 デシル(decile)分析で見る小売業の顧客管理の例 (顧客層別分析)
5.ケーススタディ で分析を考える③ 比較する物差しはあるのか?
6. データ分析をどこで使うのが効果的か
7.「データ分析の勧め」 まとめ
 8.1 データ分析の本質
 8.2 データ分析のステップ(分析のプロセスが知恵を生む)


データ分析に注目が集まる理由

ビッグデータは中小企業も使えるか

データ分析というと、まずビッグデータを思い浮かべるかもしれません。「中小企業でも使えるのか」とよく聞かれますが、中小企業のみならず、大企業でもなかなか使えていません。国際的にもビッグデータを活用しているのはAmazonやGoogle、Facebook、Microsoft、AppleなどのIT大手に限られています。確かに各社とも個人データを持っていますが、なかなか使いこなすまでにはいきません。

2017年8月の日本経済新聞に「Jリーグによるビッグデータの活用」という記事が出ていました。「JリーグID」という識別番号でチケットやグッズを購入した顧客データを集めようというものですが、はたしてサポーターが快く応じてくれるかどうか、疑問に感じています。

そこへいくと製造業ではうまく活用されています。製造データはもちろん、位置、温度、加速度などのセンサーデータを整理することで、開発や改善、管理につなげています。蓄積したデータから新材料を生み出す「マテリアルズ・インフォマティクス」といった手法も活用されています。

1.データ分析の概要(講演資料:企業力を高めるデータ分析とはより)

魅力的なデータは手元にある

では、われわれは、どんなデータを使えばよいのか。

2010年代初頭、『Sexy Little Numbers』という本が世界的ベストセラーになりました。タイトルは「既に手元にある魅力的な業務データ」を意味します。世間はビッグデータ、ビッグデータといっているが、使い勝手が悪い。それよりもまず手元のデータをしっかり分析したほうがいい、日々収集されているPOSデータや取引明細データなどのオペレーションデータを使いましょう、という話です。

データ分析の考え方:分析とは物事の実態・本質を正しく理解するための作業

データ分析の目的は、正しい認識・判断による正しい対応(ACTION)をするためです。 まず、大きさを考えてみたり、比較してみたり、時間・割合で考えてみたり、バラツキを考えたり、分けて考えたり、いろいろな考えるべき視点があります。その中でも、「バラつかせて」「分けて」考えることが今日の話のキーになります。分析手法をきちんと使い分け、共有しながら、物事の実態・本質を正しく理解するための作業に取り組みます。

分析結果という成果物を手にするためには2つの前提条件を整えておかなければいけません。ひとつは分析に必要なデータを、わかりやすい形で素早く手に入れること。ふたつは分析するためのツールの操作が容易なことです。

1.2データ分析の考え方(講演資料:企業力を高めるデータ分析とはより)

class=”tn”>データ分析はデータの「見える化」

リンゴとバナナ、ミカンの売上データがあります。普通は表にしますね。すると、「そうか、リンゴとバナナの売上は同じか」とわかります。ただ、表にしただけでは実態がつかめません。これをグラフにすると、「リンゴは1、2、3月と売上が落ちている。バナナはあまり変わらない。ミカンも意外に季節性がないね」ということが、だれの目にも明らかになります。

要するに、データを集計・整理して表をつくり、さらにはグラフ化することで、バラバラのデータが整理され、「見える化」されるわけです。適切なグラフにすれば、「気付き」を誘発します。よく使うグラフとして、散布図、棒グラフ、折れ線グラフ、円グラフなどがあります。多くの方が意外に使ってないのですが、散布図はデータのバラつきを見るのに大変有効です。

データ分析はデータの「見える化」(講演資料:企業力を高めるデータ分析とはより)

注目を浴びるビジネス・インテリジェンス環境(データベースと分析ツール)

データ分析をする環境のことを「ビジネス・インテリジェンス(BI)環境」といいます。システマティックにつくってあるデータベースは素人が見ても非常にわかりづらい。それをわかるようにするのがBIツールとしてのデータベース(データの倉庫)です。

リーマンショックで一度しぼみましたが、ここへ来て「ビッグデータの前に、手元にある魅力的なデータをきちんと使ってみよう」と、2016年ごろからビジネス・インテリジェンスがデータマイニング(膨大なデータの中から規則性や傾向を自動的に探り出すこと)、統計分析、多次元分析、データ照会・検索などのツールを含めて注目を浴びています。

1.4ビジネス・インテリジェンス環境(データベースと分析ツール)(講演資料:企業力を高めるデータ分析とはより)

ケーススタディー① 商品の品ぞろえはどのように決めるか

比較して考える(複合グラフ作成)

手順としては現状把握から始まります。いきなり商品の品ぞろえと適正在庫を考えても、なんらかの基準がなくては手が出ません。今、何が売れているか、死に筋は何か、この商品は何社に売れているのか、どの程度の出荷頻度か、そういった基本的なデータを分析し、取り扱い品目の範囲と在庫アイテム数を決定します。

よく使うのがABC分析です。データ集計表を作成し、売上金額を棒グラフに、累計比を折れ線グラフにします。Aが品切れをさせない主力商品、次にBの準主力商品、Cはその他の商品、さらには全く売れていないZという商品もあります。もう1つ、年間・月間の売上日数を集計します。月にどのぐらい出ているかがミソです。これを次の分析で使います


3.1比較して考える(講演資料:企業力を高めるデータ分析とはより)

分けて考える(クロス集計表の作成)

次にクロス集計表を作成します。行は売上高順に並べ、列に月々の出荷日数を入れます。中の数字は売上金額、または売上数量でも構いません。こうすると各商品の立ち位置が見えてきます。

例えば、「売れている商品でも、この位置ではあまり出荷していない」「この位置の商品は売れるときはドーンと売れる」ということがわかれば、「在庫を置く必要があるのか」となります。在庫を置かず、売れる時期に合わせて計画的に仕入れるスタイルを検討できるわけです。これが「ポジショニングマップ」です。得意先別の個別商品マトリックスなどが、よく使われているクロス集計表の代表例です。

3.2分けて考える(講演資料:企業力を高めるデータ分析とはより)

3.3比較的よくつかわれているクロス集計表の例(講演資料:企業力を高めるデータ分析とはより)

クロス集計表のデータを散布図に(※パワポ資料13ページ)

クロス集計を散布図にすると、さらにわかりやすくなります。グラフに近似曲線(直線)を入れて項目の関連を見る、または関連がなさそうな場合でも、4つの象限などにゾーン分けすることで、商品個々の出荷日数と売上や、得意先数と売上の関係が明確にポジショニングされ、それぞれのゾーンでの今後の販売戦略が見えてきます。

クロス集計表のデータを散布図(グラフ化)した例(講演資料:企業力を高めるデータ分析とはより)

ケーススタディー② どの商品・顧客に経営資源を集中させるか

営業戦略にリンクした売上目標をつくる

来期の予算、売上目標を作成する際、どうしたら営業戦略にリンクした売上目標をつくれるでしょうか。考え方しては売上高と利益率による顧客・商品の位置づけを明確にし、規模と質から利益貢献度を計算します。

バラつかせて、分けて考える(散布図の作成)(※16ページ)

そこで、売上金額と粗利率をバラつかせて散布図を作ります。平均の粗利率と売上金額で4つぐらいのゾーンに分けることが多い。散布図からは今後伸ばすべき商品を選定することができます。また、売上構成比×利益率=利益貢献指数という数値を出し、利益貢献指数の高い商品の取引を増加させる営業戦略を検討します。

4.1バラつかせて、分けて考える(講演資料:企業力を高めるデータ分析とはより)

度数分布(ヒストグラム)と散布図を組み合わせる(※18ページ)

例えば得意先が47あるとします。商品を何アイテム取引してもらっているかを整理し、売上高と商品点数の散布図をつくりました。そうすると、商品点数が多い得意先ほど売上高が高そうだという関連が見えてきました。

分析による「気付き」はここです。「この得意先はたくさんの商品を取り扱ってくれているわりに売上は伸びていない」「どうして、この得意先の売上はこんなに低いのだろう」と深堀りする必要があります。

同じように、得意先と月あたりの売上日数を入れて散布図にしてみました。そうすると、出荷頻度が高い得意先は非常に幅広く散らばっています。頻度が高いということは手間がかかります。さらに深読みすると、これだけ注文日数が多いのに売上高が低いというのは他社でお金をたくさん使っている可能性を考えなければいけません。1社ごとに整理していくと、おもしろい傾向が見えてきます。

ただ、出荷日数が多いことを単に手間がかかっていると思うのではなく、得意先は何か利便性やメリットを感じているはずで、ここに可能性があるかもしれません。これをアメリカでは「ジャックポット」(賭博における大当たり)といいます。こうした分析をしていくことで、普段の業務では把握していなかった、そこにある金脈、大当たりをつかむことが非常に重要です。

4.2度数分布(ヒストグラム)と散布図を組み合わせた使い方(講演資料:企業力を高めるデータ分析とはより)

ケーススタディー③ 比較する物差しはあるのか

売れている地域と売れていない地域を判断する物差しはないか

ワインの輸入商社からワインが売れている地域と売れていない地域を判断する物差しはないかと相談を受けました。市場規模により売上に差があるのは当然ですから、市場を定義したうえで、シェア分析、つまり売上高を市場規模で割ってみたらどうなるかを見てみました。最後に、それぞれの市場の商品特性を分析しました。

比較して考える(講演資料:企業力を高めるデータ分析とはより)

PI値で比較する

PI値(Purchase Index:購買指数)は、売上数を顧客総数やエリア人口などで割ったものです。このPI値を使って、成人人口1,000人あたりのシェアを見てみました。一番高いところは東京です。意外なのは東北や北海道でよく売れていること。これで判断が変わりました。仰天したのは中部です。これは完全に営業ミスでした。関東も東京の倍近く売れるはずなのに全然ダメだねということで営業のやり方を変えました。

PI値を利用すると、店舗や支店の数、地域、時系列の比較もできますし、価格帯の比較、商品の比較も可能です。

PI値の利用方法を考える(講演資料:企業力を高めるデータ分析とはより)

すべてにおいて標準化を推進し、多能工化を進める

第3に、次世代ものづくり経営では、すべてにおいて標準化の推進が求められます。多能工化を進めて、人材の活性化を図ります。マス・カスタマイゼーションは現場の多能工化・標準化、自動化の推進とロボットの活用が前提になっています。

見える化サイクルを短縮し、IoTを利用して無形資産の見える化を

第4に、見える化サイクルの短縮化も重要です。ポイントはIoTを利用して無形資産の見える化を進めることです。見える化とは可視化+自律的改善を意味します。可視化はPDCAのPとD、自律的改善はCとAにあたります。ですから、見える化の本当の勝負は見えた後にあります。

私どもが使っている見える化シートをご紹介します。簡単なもので、誰が、何を、どのようにするのかが一目瞭然のシートです。「誰が」はトップ、マネジャー、担当。「何を」は、成果、業務、資源、顧客。「どのように」は、今どうなっていて(現状)、何が目標で(目標設定)、現状と目標に、どれだけ差があって(ギャップ認識)、どういう方向で問題を解決して(問題解決の道筋)、今、どのくらい進捗しているのか(「見えるか」進捗)を明らかにします。シートを埋めていくだけで「見え」てきます。

データ分析を業務改善、イノベーションに活用

データ分析を、どこで使うのが効果的か

業務遂行マネジメントを「PDCAサイクル」とよくいいます。PLAN、DO、CHECK、ACTIONですね。データ分析の場合は「C」のCHECKから始めます。まずはデータ分析から現在の状況を知り、改善点を見つけましょう。次に具体的な改善策が可能かどうか調べてみます。ACTIONです。やってみてダメだったら納得のいく改善案を探す。うまくいきそうなら具体的な行動に入ります。そういう意味ではCHECK、ACTION、PLAN、DOという順番に並べればいいのかなと思います。

格好よくいうと、単なる業務改善にとどまらず、イノベーション(価値創造)の域に達しています。しかし、イノベーションには失敗がつきものです。データ分析して、改善してやってみてダメだったら、そのときは「FAIL FAST!」、早く失敗しろということです。失敗するにしてもスピードが大事です。そうすると「FAIL CHEAP」、損害が少ないうちに失敗しよう、さらにはデータ分析を使って「FAI SMART」、賢く失敗しようという話になります。

この「FAIL SMART, FAIL CHEAP, FAIL SMART!」はGoogleの元会長がいったアメリカのベンチャー企業の合言葉です。もちろん、普通の企業でもイノベーションに挑んだときには間違っていい。その代わり、それを糧にして成功にたどり着くことが大事です。これがデータ分析をどう使うかという話の基本です。

データ分析のプロセスが「知恵」を生む

第6に、IoTを前提とした競争戦略の明確化です。自社のコア・コンピタンス(競合他社を圧倒的に上回る強み)を明確にする必要があります。そのためには何度もいいますが、IoT、IoSを前提とした製品設計に取り組まなければいけません。モノではなく、サービスを売る時代です。本格的なB to Bによる資材調達も考慮に入れます。

データ分析の本質は皆さんが持っている小さくても魅力的なデータを「価値ある情報」に変換して活用することです。大げさに構えることはありません。ビジネス上の課題があって、仮説を立てて、具体的なデータを探し出して、どのように整理していくか。表をつくったり、グラフを並べたり、時系列で見たり、バラしたりします。そこから具体的な「知識」を見つけていきます。

知識をさらに細かく見ていくことで、「こういうことだったのか」「だったら、こうすればいいんだ」という「知恵」が出てきます。つまり、知識(Knowledge)から知恵(Wisdom)への変換、これがイノベーションにつながるわけです。

「KKDD(勘と経験と度胸と妥協)」というトヨタ用語がありますね。昔はこれだけでよかったのですが、今はいくらでもデータを取れるのですから、「KKDD+数字」だと思います。 最後は「エイヤ!」という判断も必要です。しかし、正しそうな裏付けがないと、なかなか決定できません。一歩踏み出したが、間違ってしまった。だったら、数字を見直せばすぐに元へ戻れます。ですから、ぜひ数字からストーリーを語るようにしていただきたい。これがデータ分析のキモだと思います。

データ分析のステップ(講演資料:企業力を高めるデータ分析とはより)


 講師ご紹介 中小企業診断士
ITコーディネーター
星野雅博 氏

民間企業数社にて製造設計・開発に携わり生産管理システムの開発設計や工場や倉庫内の管理にも従事。その後中小企業診断士として独立・開業し、中小企業大学校での特別指導員、客員講師を歴任。中小企業企業総合事業団・情報化アドバイザー等を通し、中小企業におけるコンサルティングを行う。
平成15年頃から公益財団法人にいがた産業創造機構(NICO)のインキュベーションマネージャーとして新規創業者の支援を行い、今までに30社超えの起業支援実績がある。
特に情報・通信分野を担当し業務系情報システムの利活用だけでなく、組込みシステムの研修とその普及に注力、その後のIoTへの活用を支援、またクラウド系アプリ研究会を立ち上げSaaSアプリ、スマホアプリを開発支援するなど活躍は多岐に渡る。
民間企業においてはBIシステム構築を専門としており、首都圏の中堅企業を中心にERPパッケージ導入とそのデータ活用システム構築のアドバイスに実績がある。

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