給与計算の基礎② ~役員給与~

給与計算の基礎② ~役員給与~

1.はじめに

 前回は給与計算のうち、従業員給与と外注費について解説しました。今回は、役員給与の解説です。税務上、過大役員報酬については実質的に利益処分たる賞与とみなされる可能性がある等、留意すべき点があります。経理処理上は役員給与と従業員給与は大きな違いはありませんので、今回は税務上の話を中心に解説したいと思います。

2.役員給与の区分

 税務上、役員給与は以下の3つに分類され、それぞれに異なった制限が設けられています。いずれも従業員給与とは違い、簡単に増額や減額できないようになっています。自由に増額や減額できてしまうと、会社の利益を操作できてしまい、適切・公平な課税が担保されないからです。そのため、一定の要件を満たさない場合は損金算入できない(費用として認められない)設計となっています。

税務上の分類 税務上の定義
定期同額給与 支給時期が1か月以下の一定期間ごとである給与で、その事業年度において支給額が同額であるもの 月々の役員給与にあたる
事前確定届出給与 所定の時期に確定額を支給することを記載した届出書を、予め所轄税務署長に提出した場合において、その届出書通りに支給する給与のこと 一般的にボーナス、賞与にあたる(定額)
業績連動給与 同族会社以外の法人が、その業務執行役員に対して、業務に連動して支給する給与のこと 業績連動報酬のような業績指標に応じて変動する報酬

 ではここから、上記の3つを詳しくみていきたいと思います。

3.定期同額給与

 定期同額給与は一般的な言い方をすれば、月々に支払われる給与のことを指します。税務上「支給額が同額であるもの」と規定されている点がポイントです。つまり、毎月同額であれば損金として認められます。

 つまり、決算を締める段階でその年度の利益が大きかったため、期中の給与を増額して利益を圧縮する、といったことや、逆に利益が少なかったからといって減額することも認められません。いずれも増額又は減額した差額について損金不算入となります。

例)12月決算会社であった場合
ケース①期中で増額した場合

⇒12月に計上した100万円のうち、増額した30万円は損金不算入となります。

ケース②期中で減額した場合

⇒減額した場合も差額が損金不算入となります(210万円=30万円×7か月)

 基本的には上記のルールが存在しますが、やむを得ない事情により報酬金額を変更しなければならない状況も想定されます。そのため、臨時改訂事由と業績悪化改訂事由のいずれかに該当すれば、金額に変動があった場合にも全額損金算入できるようになっています。

 臨時改訂事由としては以下のように定められています。

(1)役員の職務上の地位の変更
(2)役員の職務内容の変更
(3)上記に類するもの

 業績悪化改訂事由としては以下のような場合が挙げられています。

(1)株主との関係上、業績や財務状況の悪化について、役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合
(2)取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
(3)業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合

 これらの事由がなく、報酬額を変更するには届出が必要です。定期同額給与の変更は税務上、事業年度開始の日から3か月以内とされています。また会社法上、定款に取締役の報酬に関する定めがない場合は報酬を変更する場合は株主総会決議が求められます。

 そのため、多くの会社では定期株主総会(3月決算会社であれば6月末までに開催)で取締役報酬の改定を行っています。

4.事前確定届出給与

 事前確定届出給与というのは一般的にボーナスといわれるものにあたります。事前確定届出給与はその名の通り、事前に賞与の支給日と支給額を株主総会で決議し、それから1か月以内、もしくは事業年度の開始日から4か月以内に税務署に届け出る必要があります。届出と支給実態が異なる場合は全額損金不算入となります。

5.業績連動給与

 業績連動給与とは利益や株価等の指標を基礎に算定される給与です。ただし、これを損金算入するにはまず、非同族会社で有価証券報告書提出会社でなければなりません。業績連動給与は金額が固定されておらず利益操作に用いられやすい性質があるため、損金算入のためのハードルは高くなっています。中小企業では導入している事例は少ないと思われます。

6.おわりに

 今回は役員給与について解説しました。中小企業ですと、定期同額給与と業績連動給与がメインになってくると思います。

 役員報酬は従業員と異なり、税務上さまざまな制約があります。また、会社の財政上適切な金額であるか、株主や社員の同意を得られる金額であるか、といった観点も考慮しなければなりませんので、月々の給与にしても賞与にしても金額を変更する際には計画的に進めていく必要があります。

 役員報酬にしても従業員給与にしても、給与は生活上無くてはならない存在です。その給与についてどういった制度があり、どういった調整の下で手取り額が算定されているかなど、自身の給与について会社視点・従業員視点の双方から考えてみると、意外な視点を得るきっかけにできるかもしれません。

著者近影
執筆者
RSM汐留パートナーズ税理士法人
パートナー 税理士
長谷川 祐哉

埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
上場企業やIPO準備会社に対して、連結納税支援、原価計算・管理会計導入支援、会計ソフト導入支援などの高度なコンサルティングサービスを提供している。国税三法と呼ばれる所得税、法人税、相続税の3つの税務に精通。

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