給与計算の基礎①

給与計算の基礎①

1.はじめに

 給与明細をみても、その詳細について理解している方は意外に少ないのではないでしょうか。給与のみならず業務委託で外注費として報酬を支払っている場合などは、源泉徴収についてきちんと理解している必要があります。また役員報酬については、従業員とは異なる扱いになるので、それを理解していないと法人税の計算上、不利になってしまう可能性もあります。

 今回から2回にわたって給与計算の基礎を解説していきたいと思います。今回は従業員に対する給与と業務委託に係る源泉徴収についてみていきます。

2.従業員給与

 まず、従業員給与について解説していきます。詳細な計算は社労士事務所等に委託し、社労士より受領した数字を機械的に仕訳入力しているだけというケースも多いかと思います。しかし、人件費計算は入退社や扶養家族の変更等、社員の状況を把握しにくい社外の人より、本来は社内のメンバーの方がミスに気づける環境にあります。そのため、社内の管理部門のメンバーが基本を理解しておくことはとても重要です。

 給与明細はおおよそ以下のような形式になっているかと思います。

 多数の項目がある給与明細の中でも、給与情報を見る上で、注意が必要になるのは、控除に関する項目です。控除には様々な項目があり、給与計算を複雑にしている要因の一つです。ここからは控除に関する項目を見ていきます。

【社会保険料】

 法定控除の項目のうち以下が社会保険料といわれるものです。

・健康保険

 まずは健康保険料です。全国健康保険協会や各健康保険組合が運営している健康保険に対する保険料です。ここで所属する健康保険組合に保険料を支払っているからこそ、健康保険証を提示した医療機関において、三割負担で医療サービスを受けることができます。健康保険組合の種類は様々で、企業ごとに独立しているものもあれば、業種ごとにいくつかの企業が集まって作られているものもあります。

・介護保険

 介護保険は、介護が必要な方に対する介護サービスの費用を、社会全体として賄う制度です。一般的には、健康保険の加入者(介護保険第2被保険者)が支払う保険料で、満40歳から満64歳まで徴収されます。

・厚生年金

 厚生年金は、国民年金に対して上乗せする形で、将来給付される年金を積み立てるものです。厚生年金適用事業所に勤務するすべての従業員が、国籍、性別、賃金の額にかかわらず厚生年金に加入する必要があります。原則、会社に入社した時点から70歳まで加入でき、70歳以上の人は健康保険のみの加入になります。給付の開始は65歳からとなっています。

・雇用保険

 雇用保険とは、労働者が失業して所得がなくなった場合に、生活の安定や再就職促進を図るために失業給付などを支給する保険をいいます。

 上記の社会保険料の他に控除される代表的なものは以下です。

・所得税

 所得(会社員の場合、給与)に対して課税される税金です。基本給のみならず手当についても課税対象とされており、住宅手当や地域手当なども合計した金額に対して税率を掛けた金額が控除されます。

・住民税

 都道府県民税と市町村民税を合わせて住民税と呼びます。通常は会社が預かり、本人に代わって納税しますが(特別徴収)、事情がある場合は給与から控除せず従業員本人がそれぞれ都道府県に直接納税することになります。

 上記のいずれの項目も、会社が従業員から預かって、代わりに各監督庁に納めるものです。

 会社の視点で注意が必要な論点として、控除のタイミングがあります。社会保険料を給与から差し引くタイミングは、当月徴収と翌月徴収の二つあり、これを誤ると金額に差異が生じます。その為、特に人事労務部門で人員の移動があるなど、担当者が変更になった際には、勘違い等が無いよう注意が必要でしょう。

 また、社会保険料は給与の金額によって確定します。特別な事情がなければ4~6月の平均給与を「月額報酬額」として計算の基準とします。その年の月額報酬額から毎月の控除額が決定され、9月支給の給与から控除額に反映されることになります。

【労働保険】

 労働保険とは雇用保険と労災保険を合わせた呼称になります。労災保険はパート・アルバイトを含め労働者を1人でも雇ったら加入しなければなりません。一方、雇用保険は1週間の所定労働時間が 20 時間以上であり、かつ31日以上の雇用見込があれば必ず加入しなければなりません。雇用保険は雇用者と被雇用者で負担しますが(負担割合は年度によって異なる)、労災保険は全額が雇用者負担となるため給与計上時の従業員からの預り金には含まれません。

 ちなみに、社会保険料は現状、雇用者と被雇用者の負担は50%ずつなので、給与明細から控除されている額の倍額が社会保険料として納められています。

3.給与の仕訳例

 ここからは、給与の仕訳例をみてみましょう。例は社会保険料の当月徴収翌月払いを想定しています。また、数値は簡略化した例で実際の算定額とは異なります。

給与の仕訳例

 項目が多い為、一見複雑に見えますが、給与確定時に未払給与と共に各控除項目の未払費用が計上され、支払時点で未払費用が消し込まれていく、という流れです。

 各種控除に係る預り金等の納付期限は以下の通りです。

・源泉所得税…原則は支払月の翌月10日払いとなっています。一定の要件を満たしていれば特例徴収(年2回払い)にすることも可能です。
・社会保険料…翌月末となります。
・労働保険…毎年6月1日から7月10日に支払確定した前年度(4月1日から3月31日分)の給与を基に一括して申告・納付を行います。一定の要件を満たせば7月10日、10月31日、1月31日の3回に分割して支払いを行うことができます。いずれにしても毎月労働保険料について概算で計上し、3月で確定額が算定されるため、その時点で概算計上額と確定額の差額を法定福利費に計上します。

4.業務委託(外注費)にかかる源泉徴収

 給与所得以外にも、税理士への報酬・原稿料・広告などのデザイン料など、以下に引用する報酬に係る支払については源泉徴収が必要となることに留意が必要です。また、源泉徴収が必要となるのは、基本的には報酬等の支払を受ける者が個人の場合です。

1.原稿料や講演料など
2.弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
3.社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
4.プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金
5.映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビジョン放送等の出演等の報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
6.ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金
7.プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
8.広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金

(国税庁HPより)

 源泉徴収額については国税庁のHPで最新のものを確認することができます。

5.おわりに

 今回は給与(人件費)計算のうち、従業員給与と業務委託に係る源泉徴収について解説しました。冒頭で述べた通り、給与計算は複雑なため、社労士事務所等の専門家に頼るのが合理的ではあります。しかし、基本的なことを理解しておき、社労士事務所の計算結果を大まかにであれチェックできる体制を構築することが理想でしょう。

 次回は、役員給与について解説します。従業員給与とは特に税務上で扱いが異なりますので、留意点をご紹介したいと思います。

著者近影
執筆者
RSM汐留パートナーズ税理士法人
パートナー 税理士
長谷川 祐哉

埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
上場企業やIPO準備会社に対して、連結納税支援、原価計算・管理会計導入支援、会計ソフト導入支援などの高度なコンサルティングサービスを提供している。国税三法と呼ばれる所得税、法人税、相続税の3つの税務に精通。

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