AIの活用で変わる新たなマンション管理

株式会社ファミリーネット・ジャパン
取締役常務執行役員
秋山 豊 氏

AI管理員システムと「人」の共存

昨今、マンション管理業界では管理員のなり手不足等、「担い手確保・育成」「生産性向上」は、喫緊かつ最重要の大命題となっております。また、多様化するライフスタイルや価値観の変化、国際化等によって、マンション管理会社とお客様との間にも新たな課題が出始めております。働き方改革を進める中、如何に生産性とお客様満足度の向上を図り課題を解決していくのか、そして事業機会を拡大していくのか、それらの解決策の1つとしてAIやIoTの活用がマンション管理業界でも着目され始めています。

本セミナーでは、FNJのAIプラットフォームで提供予定のAI管理員を通じて、マンション管理業界の未来と課題解決の可能性について解説頂きました。

AIの進化とマンション管理業界への進出

49%の職種がAIに置き換わる

 野村総合研究所とオックスフォード大のオズボーン准教授の共同研究によると、2025~2035年、日本の労働人口のうちAIやロボットで代替え可能な割合は49%です。どういった職種が置き換わるかというと、会計事務など事務系は大半が置き換わると見られています。マンション管理業も置き換わる可能性があります。当社では、単純な置き換えだけでなく、管理業界の様々な課題を解決し、更なる価値向上を目指して「AI管理員」というプロジェクトをスタートさせました。
 AIというとAmazon EchoやGoogle Homeを連想される方も多いでしょう。これらの核となる技術はAI音声認識です。対話用のAIエンジンと音声合成のAIの技術を組み合わせている。ちょっと前までは機械的な平板な音声でしたが、現在は人間の声と、ほとんど変わりがありません。

講演資料:AIの活用で変わる新たなマンション管理より

AIの進化

 AIの進化を語る上で画像認識技術も重要です。人間は犬と猫の区別は簡単につきますが、従来のコンピューターには難しかった。ところが、進化したAIは1万枚のいろいろな動物の写真から犬の画像を瞬時に選ぶことができます。
 大量のデータ処理もAIは得意中の得意です。製薬業界では、ひとつの新薬を創るために何万通りのシミュレーションを地道に行ってきました。人手も手間もコストもかかりますから、薬代は高価になりました。ところが、AIを使うことで何万通りのシミュレーションが時間をかけずに行えるようになりました。
 2016年、AIの「アルファ碁」がプロ棋士に勝利しました。将棋や囲碁は打てる手の数が多く、コンピューターでも容易に勝てないと思われてきました。AIの進化は速く、現在では世界のトップ棋士でもAIに勝てません。自動車の自動運転でも、レベル5の完全自動運転が2020~2025年には実現できると予想されています。
 現在のAIは特化型です。画像認識や音声認識に特化している。AIがさらに進化し、汎用型AIが出現すると、対応できる範囲が飛躍的に広がります。49%どころか、70~80%の仕事がAIに置き換わるかもしれません。

マンション管理業界の現状

マンション管理員の雇用状況

 一方、マンション管理業界では人手不足が深刻化しています。『週刊東洋経済』2017年6月3日号には「人手不足がここまで波及、マンション管理員の窮地」という記事、『日本経済新聞』2018年9月6日朝刊には「シニア職場も人手不足」という記事が掲載されていました。今やマンション管理や警備の募集をしても、なかなか人が集まらない。「70歳雇用」の時代が来ると、シニア層の管理員確保は今以上に難しくなります。場合によっては主婦や学生、外国人、兼業者を雇わざるを得ないかもしれません。

マンション管理員の勤務形態

 一般的なマンション管理員の勤務時間は8時から17時まで。なかには8~13時の午前勤務の人もいます。入居者のライフスタイルは共働き世帯が多く、出勤時間は6~8時、帰宅時間は小さい子がいる家庭を除き、お父さん方は20~21時以降でしょう。つまり一般の入居者は管理員に会えないのです。その状況に入居者が満足しているかといえば、クエスションマークをつけざるを得ません。

マンション管理サービスに不満

 管理員に会えないと、「車庫証明を発行して欲しい」といった管理会社への伝言も頼めません。仮に会えたとしても管理員も多数の仕事を抱えており、受付業務に対応してもらえないことがあります。その代わりに大半の管理会社はコールセンターを置いており、最近はウェブサイトで受け付ける会社も増えてきました。ただ、入居者は、わざわざ電話・メールしなくてはならず、電話しても機械音声の対応で待たされることが多い。マンション管理サービスに対する不満とストレスを抱えている可能性があります。

AI管理員導入時の対応例

AI管理員の導入

 そこでAI管理員を導入すると、どうなるか。AIですから休むことなく働きます。管理員がいなくても24時間AIが対応します。AIは人間と違って忘れることがありません。学習することで、より的確な回答・業務ができるようになります。当社はAI管理員をアプリで提供しますから、通勤時間中や会社の昼休みにアプリを立ち上げて、「車庫証明が欲しい」といえば後日必ず手元に届きます。AIが管理員の業務を24時間サポートしますから、管理員はAIができない仕事に専念できます。管理員とAIの分業化が進むわけです。

AI管理員の対応:「車庫証明が欲しい」「ペットを飼いたい」

 本日はAI管理員のプロトタイプをご紹介します。女性のAI管理員、AIコンシェルジュというコンセプトでつくりました。入居者との応答例を紹介します。

入居者 車を買ったので、車庫証明が欲しい。
AI管理員 かしこまりました。次の営業日にポストにお届けしますので、ご確認ください。

入居者 ペットを飼いたい。
AI管理員 ペットを飼う場合、申請書が必要です。該当の申請書を選び、プリントアウトしていただくか、申請書をお手元にお届けすることも可能です。お届けをご希望されますか。
住人 郵送でお願いします。
AI管理員 かしこまりました。次の営業日に郵送いたします。

入居者 犬を飼いたい。
AI管理員 飼える犬の大きさは図に示すとおりです。ペットを飼う際は「届出書」の提出が必要となります。お手数ですが、お手持ちのスマートフォンからQRコードを読み取り、必要事項を入力の上、送信してください。

普通の管理員は飼える犬のサイズを、たちどころに答えられません。AIのシステムに登録しておけば、即座に画像で示すことができます。同様に「理事会の議事録が見たい」「管理規約が見たい」といった要請にもAI管理員のシステムにアップロードしておけば、その場で応えられます。

AIの対応:「上の階がうるさい」

 管理員の精神的ストレスが大きい入居者のクレームや依頼にもAI管理員は、たんたんと対応します。

入居者 上の階がうるさいので、どうにかして欲しい。
AI管理員 ご連絡ありがとうございます。詳細をお伺いし対応を検討いたします。担当よりご連絡させていただきますので、ご希望される日時とご連絡先をご入力いただけますか。

 こうしたクレームには最終的には人間が対応せざるを得ませんが、AIが受け付けることで、管理員の精神的負担は大きく軽減されます。

AIの対応:「浄水器カートリッジの交換方法を教えて欲しい」

 管理員の本来の業務ではありませんが、入居者のこうした要望に応えることもできます。

入居者 浄水器カートリッジの交換方法を教えて。
AI管理員 浄水器カートリッジの取り付け方を動画でご案内いたします。ご入居時に浄水器のカートリッジはセットされていません。お客さまの購入が必要です。
入居者 カートリッジを注文したい。
AI管理員 はい、お任せください。

 AIが単なる管理員ではなくて、専有部向けの営業社員として働きます。管理員やフロント社員の研修・教育用のツールとしても有効です。AIに登録しておけば管理員が「この設備の点検方法を教えて」「浄水器のカートリッジの交換方法を教えて」と聞けば、登録した動画が流れます。

AI管理員システムの機能と強み

AI管理員システムの標準機能

 AI管理員システムはスマホにも対応しています。スマホのアプリとしてダウンロードすれば、通勤の途中でもAI管理員を立ち上げて質問や依頼ができます。アプリのプッシュ機能を使えばAI管理員が営業社員的な動きをしたり、入居者全員に積極的に話しかけたりすることもできます。
 ただし、AIは覚えさせたことは忘れませんが、覚えさせていないことには答えられません。深層学習などを駆使して勝手に学習してボキャブラリーを増やしていくAIもありますが、AIに任せると話してはいけない言葉や差別用語を使う可能性があるので、商用化したAIの対話システムには制限をかけています。もっとも、入居者に何か聞かれたときに答えられなかったら、入居者はいい感情は持たないので、3回答えられないとコールセンターへ切り替えられるような設定も可能です。

人にはできないAIの4つの特徴(強み)

 AIには人にはマネできない4つの特徴があります。第1にAIは疲れないし、忘れません。24時間365日、ずっと働いてくれます。残業代や36協定はAIにはありません。第2に永遠に成長可能です。学習させることで成長していくので、最終的にはスーパーフロント社員より優秀なAIが誕生するかもしれません。第3に同時に1対多のコミュニケーションが可能なことです。コールセンターや管理人は同時に多数には対応できませんが、AIは同時に100人でも1万人でも応答できます。第4にAI同士の対話が可能で、情報連携することで、さらに高度なサービスを構築できます。

講演資料:AIの活用で変わる新たなマンション管理より

AI管理員システムと「人」の共存

AI管理員システムの役割

 単なる対話システムではありません。当社のAI管理員はフロント社員や管理員、管理組合理事の教育ツールとしても使えます。管理組合の理事になった方がマンションに詳しいとは限りません。フロント社員が持っているノウハウをAI管理員に覚えさせておけば、AI管理員のアプリを立ち上げるだけで聞きたいことに答えてくれます。入居者や理事にとっても心強いサポートシステムです。

AI管理員は多様な働き方を支援

 AI管理員がいれば人間の管理員の仕事は軽減されるので、シニア層、主婦、学生、兼業者のマンション管理業に対するハードルも下がります。クレーム対応の1次対応をAI管理人が肩代わりしてくれるので、シニア層、主婦などの働き手も確保しやすくなります。

AI管理員システムと「人」の共存

 各社がAI管理員システムを導入したら、差別化ができなくなるという懸念を抱かれるかもしれません。手順化・マニュアル化できることはAIにやらせればいい。空いた時間を創造性を要する仕事、たとえば企画提案型の営業に注ぎ込むことで、他社との差別化は十分できると思います。AI管理員システムと「人」の共存は可能だし、共存することで、よりよい価値の提供が可能になります。

講演資料:AIの活用で変わる新たなマンション管理より

AI管理員システムの拡張性

 AI管理員に「自分の部屋は、いくらぐらいで売れるかな」と聞いたら、AI査定システムと連携し、「4,000~4,500万で売却できる可能性があります。もしご興味がありましたら、当社のグループ会社へおつなぎしましょうか」と答える。決して難しくはありません。管理組合総会の電子投票システム、顔認証システム、マンション管理会社システムとの連携なども考えられます。
 拡張性を活かせば不動産仲介やリフォーム会社との橋渡し、多言語対応なども可能です。外国人の入居者が増えていますが、掲示物を英語や中国語で出すのは難しい。翻訳アプリを使ってAIで対応すれば比較的コストをかけずに通知できます。

講演資料:AIの活用で変わる新たなマンション管理より

マンション管理業は労働集約型産業

AI管理員はクラウドサービスで提供

 AI管理員はクラウドサービスで提供する予定です。従来のAI開発商品と違い、システム開発期間は0カ月です。サービス開始前準備は短期間、システム利用コストもクラウドサービスなので低コスト、システムの保守やデータセンターのメンテナンス契約の必要もありません。サービスサポートはありますし、機能のバージョンアップは開発負担なし、システム連携・拡張性も非常に高いものがあり、コストパフォーマンスに優れています。

マンション管理業は労働集約型産業

 マンション管理業も労働集約型産業です。参入障壁も高くない。管理系や会計系の仕事はAIに置き換えられる可能性が高いでしょう。残りは企画系の仕事です。AIにできることはAIに任せ、人間は創造性が要求される仕事をするべきだと思います。
 マンション管理業に異業種が参入する可能性もあります。異業種はAIやIoTをフル活用して管理費を下げ、顧客満足度を上げようとします。航空業界のLCC、証券業界のインターネット証券会社のように価格破壊から始めるかもしれません。マンション管理業界もAIやIoTを活用した管理サービスを考えていく必要があります。


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秋山 豊 氏

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