新たなマンション管理~8つの発想の転換~

横浜市立大学
国際総合科学部 教授
齊藤 広子 氏

管理不全に陥らないマンション管理のポイント

「首都圏のマンションは管理不全にならない」というのは一昔前の認識です。古い、もしくは小規模のマンションの場合であると管理が不行き届きになり、だんだんと管理不全マンションとなるようです。管理不全に陥る要因として本セミナーでは、管理組合がない、管理システムがない、管理会社などの専門家の支援体制がない、店舗が入っているマンションは所有者の合意形成が難しい、といった点が挙げられました。

マンション管理の考え方も変化が必要になってきています。
本セミナーでは、住環境の変化に対応する為に、新しいマンション管理に向けた発想転換ポイント8つをご紹介頂きました。


発想の転換1:マンションは管理不全にならない?

越後湯沢のマンションで管理不全があると聞き、調査に行ってきました。実際に捨てられたマンションを3つほど見ました。衝撃を受けました。町役場も「こんな時代が来るとは思わなかった」と嘆いていました。住人はいないし、管理費・修繕積立金も払っていない。固定資産税も払えません。

実は横浜市にも管理不全マンションがあります。だれも住んでいません。7〜8年間、閉じられています。マンションはいきなり管理不全にはならない。維持・管理や修繕が適切に行われず、環境が悪化して住人が徐々に消え、管理不全マンションとなりました。

外部観察調査ランク別 結果

横浜市の築30年以上マンションを対象にまずは外部を見て調査しました。Dランク(不可)が4件、Cランク(可)が15件ありました。表にしめしますようにS、Aランクと優秀なマンションがある一方でC、Dランクもあり、30年経つと完全に二極化することがわかってきました。

外部観察だけでは中身はわかりません。そこでアンケ―ト調査を行いました。ダメなところにはアンケート票すら届かない。Dランクは100%届きませんでした。アンケートの不達率と回答率にランクが、そのまま表れていました。

外部観察調査ランク別 結果

築年数別・戸数別 アンケート調査不達・回収状況

築年数別・戸数別に見ると、古いマンション、小規模マンションへの手が届きにくい。アンケート票も届かず、状況が把握できません。

首都圏でも、なぜ、管理不全になるのか?

低ランクのマンションには共通点があります。1つは管理組合がない、2つは管理システムがない。つまり初めから場あたり的にやってきたのです。3つはプロがいない、管理会社などの専門家の支援体制がありません。4つは特に店舗などが入っているところは所有者の合意形成が難しい。5つには初めから、その体制がありません。
マンションでも管理不全になります。ほっといても何とかなるだろうということはありません。マンション管理は多様化の時代です。
基本体制を整えて、マンションごとに方法を設定すること、マンションの管理方法は1つではないということです。

発想の転換2:マンションでは必ず理事会をつくる?

先日、学生に試験で「マンションでは必ず理事会をつくる、○か✕か」と聞いたら、堂々と「○」とつけてきた学生が多くいました。法律的には別につくる必要はありません。通常は管理組合をつくり、理事を選び、理事長が管理者、つまりマンションの最高責任者になります。私たちはこのスタイルが当たり前だと思っていましたが、「はたして、これでいいのか」という時代になりました。

日本は理事会方式、フランスは管理者方式

フランスでは、理事会をつくらず、管理の専門家である管理会社が管理者になります。理事会をつくる場合、理事会は管理会社をチェックする役割です。日本はアメリカにならい、理事会方式を採用しました。

高齢化などが原因でマンション管理組合の運営困難

しかし、理事会方式は高齢化が進み、役員のなり手が不足になっています。最近は外国人の所有者が増えており、さらに管理が難しくなっています。

1980年頃にできた、あるマンションは全部が外国人の所有でした。最近できた別のマンションも約900戸のうち約3割が外国人の所有です。問題は所有者が日本に住んでいないことです。管理組合が知らないうちに売買して管理費の請求ができない、連絡がつかない、日本語が通じないなどの問題が発生しています。

高齢化などが原因で管理組合の運営困難

理事がフェイストゥフェイスで集まる必要はない

理事会をつくらない方法もあります。ただ、課題は多く、いろいろと工夫が求められます。たとえば今後のマンション管理は必ずしも理事がフェイストゥフェイスで集まる必要はないかもしれません。最近、私たちの学会でも会議でスカイプを使ったりします。いろいろな技術を使って理事をサポートすれば「理事のなり手がいない」という問題も改善されるでしょう。

外国人所有者も巻き込める

外国人所有者向けにマンション管理業協会が『解決!ひろこ先生 マンション暮らしBOOK』の英語版を出しています。その他に国内に代理人を置くことを規約で定めたり、管理費は引き落としだけではなく、振り込みも可能にしたりといった対応も必要になります。

発想の転換3:マンションは40~50年で建替え?

昔、「マンションは40〜50年で建替え」といわれていましたし、少し前までは築30年のマンションを老朽化マンションと呼んでいました。

建替えをスムーズにできるとは限らない

建替えをスムーズにできるとは限りません。ということは60〜70年使うことを考える必要があります。①大規模修繕、計画修繕はもちろん、②耐震性の低いものは耐震診断+耐震補強、③改修やリノベーション、④最後までのプロセスプランニングが求められます。

建替えをスムーズにできるとは限らない

予防することで寿命を延ばす

私も大学で「マンションは100年持つ」と教えていますが、その大前提として修繕が欠かせません。ダメになってから修繕するのではなく、ダメにならないように修繕します。予防することで寿命を延ばすわけです。

マンションの大規模修繕をするためには設計図などの図面が必要

大規模修繕をするためには設計図などの図面が必要で、図面をきちんと保管しておくことが大事です。“傾斜マンション事件” が起こってから、地盤情報も分譲会社は管理組合に渡しておく必要が生じました。地盤情報があるかないかで、地震・災害時の対処の仕方が大きく変わります。

耐震診断・耐震補強:熊本地震によるマンション被害実態

耐震診断・耐震補強が、なかなか進みません。耐震診断すらしない。1978年に起きた宮城沖地震をきっかけに、1981年、建築基準法が改正され、新耐震基準がスタートしました。1981年以前の旧耐震基準のものは地震が起こるたびに被害が多くなっています。

耐震補強工事の進め方

耐震補強すると、戸あたり平均230万円かかるといわれています。費用負担が困難な人もいますから、合意形成が難しい。耐震診断・耐震改修設計・耐震工事には自治体の補助金制度もあり、大いに利用したいものです。

60~70年の長期ビジョンを持つ

60~70年の長期ビジョンを持つことが大事です。それだけ使うとなると、長期修繕計画と長期運営計画が必要です。例えば、日本には定期借地でつくられたマンション約501棟あります。50年後にはなくなるとわかっているのに、いつまで住み、いつから取り壊し作業に入るのかといったプランを持っていません。30~40年後には皆、不安になるし、資産価値も下がります。
そのためには、ハード、ソフトともに住宅の履歴情報が必要です。

発想の転換4:マンションは現状維持? 修繕だけ?

具体的な改善事例 築25年

建物の色調を変え、2色にすることで、全体のイメージを変えた事例です。塀の色も変えました。バルコニーの手すりも鉄製からアルミ製へ、エントランスもオートロックに変更し、郵便ポストも変え、バリアフリーにしました。柱と耐震壁を設け、耐震性も向上しました。その結果、売買価格も上がりました。時代に合ったものにバージョンアップしていくことが大事です。
マンションは原状維持、修繕だけでは陳腐化します。時代に合ったものに価値アップが必要になります。そのための計画も必要で、予算も必要になります。
ですから、将来に向けてのハードとソフトの計画が必要となります。

発想の転換5:マンション管理組合は管理だけ? コミュニティはだめなの?

「マンションでコミュニティ活動をしちゃいけない」と思っている人もいますが、それは間違いです。管理組合をうまく動かしていくにはコミュニティ活動が不可欠で、マンション管理指針や標準管理規約にも書いてあります。自治会への加入は強制できませんが、管理組合は自治会ではありません。いざというときに助け合えるのは日頃のコミュニティ活動があるからです。

浦安市の2つのマンションの事例

浦安市の2つのマンションが東日本大震災のとき、どういうふうに助け合ったかを以下に示しました。


浦安市の2つのマンションの事例:自発的? 呼びかけ? 当番?

助けた・助けられた事例で、「自発的に行った」人も少なくないのですが、「呼びかけ」「当番」も多かった。同じエリアの戸建て住宅地では「呼びかけ」「当番」が少なかった。よってマンションのほうが助けあいが多くなっていました。これがマンションのコミュニティが機能したわけです。

浦安市の2つのマンションの事例:自発的? 呼びかけ? 当番?

浦安市マンションでの取り組み

日頃から積極的にイベントを行っているところ、全員参加のイベントを頑張ってやっているところでは大震災のときも、とくにすみやかな行動をとることができました。日頃から顔をあわせる活動をしていると、災害対応だけでなく、管理組合の運営がスムーズにいくという結果も出ています。
コミュニティ活動は、命を守る、運営をうまくするために必要です。マンションにあった活動を実践しましょう。そのために、うまく情報を共有しましょう。

発想の転換6:マンション管理組合は管理だけ? 経営はだめなの?

管理組合が管理だけに終わらず、経営に乗り出すこともあります。京都市のDマンションは将来の建替えに備えて隣のスーパーの建物と土地を購入しました。

京都市のDマンションの事例

建物をコミュニティホールに改装し、ゲストルームや子供絵本文庫、麻雀室も開設しました。土地を広げて形状をよくすることで効率的な建替えにつながります。日曜日にはコミュニティホールの1階が喫茶室になります。

私がプロデュースしている管理組合は不動産経営をして収入も得ています。初めから管理規約の中で、管理組合の活動として「経営」を位置づけ、住民には納得して買っていただきました。ただ、管理組合がどこまでできるかは難しい問題で、専門家のアドバイスが必要です。

発想の転換7:マンション管理組合や管理会社は専有部分に関与できない?

管理組合や管理会社はマンションの共用部分しか関与できないのかという問題です。高い管理ランクのマンションは専有部分まで踏み込んでいます。例えば専有部分のリフォームの履歴をきちんと持っている、居住者名簿をつくっている、マンションをPRして中古住宅流通で高く売れる努力をしているといったところは高いランクになります。

発想の転換7:管理組合や管理会社は専有部分に関与できない?

マンション管理会社パートナー型の例 築50年

管理会社がパートナーになって資産価値を上げている例もあります。管理会社は住戸を10戸ほど買い取り、DIY型賃貸住宅として提供しました。すると、若者がやって来た。住んでいるうちに「家賃を払っていたら、もったいない」と購入する人も現れます。

マンション管理会社パートナー型の例 築約40年 6000戸:高齢者サービスと子育て支援

ここでは管理会社が、いろいろなサービスも提供しています。生活支援サービスは入会金1,000円、年間維持費4,000円。照明器具管球の取り替え、家具の移動・処分の搬出、高所清掃など高齢者には難しい作業も行っています。
一方ではディベロッパー所有の店舗を利用し、ママさんグループがカフェを運営しています。子育てに不安なママが、たまり場にして話し合いをしていると、若い人が集まってくる。ここで育った2代目も続々と帰ってきました。管理会社がうまくサポートすることで、高齢者も若い人も安心できる暮らしを提供しています。

豊かな暮らしをつくることに管理組合、管理会社は大いに関与していきましょう。ちなみに、管理組合や管理会社はマンションだけの時代ではありません。いまや、戸建住宅地や既成市街地にも導入されていっています。

発想の転換8:管理情報はマンション管理組合だけのもの?

管理情報は管理組合だけのものではありません。もちろん個人情報などは公開できませんが、出せる情報は積極的に発信すべきです。京都のDマンションはホームページをつくっています。「バリアフリーにしました。高齢者に優しい」と載せたら、高齢者ばかりが来ました。そこで「バリアフリーにしました。ベビーカーを押すのに優しい」として、図書ルームに絵本やぬいぐるみを置いた写真をアップしたところ、若い人が来るようになりました。ここは修繕情報も、きちんと出しています。頑張っているマンション・管理組合が市場で正しく評価されるようになってきました。

「耐震診断しても資産価値は上がらない」といわれますが、耐震診断したうえで、きちんと情報開示していくと市場で評価され、資産価値も向上します。価格も変わるし、流通の速さにもつながります。
これからのマンションは守りの管理から攻めの管理が大事です。情報を上手に使い、専門家を上手に活用し、当たり前を乗り越えて新たなマンション管理の時代を創っていきましょう。


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齊藤 広子 氏

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