令和5年度税制改正大綱① ~インボイス特例・新NISA・相続税~

1.はじめに

 2022年12月15日に自民党税制調査会で令和5年度税制改正大綱が取りまとめられました。岸田政権発足後、令和版「所得倍増計画」を目指し、令和4年度の税制改正大綱では賃上げ税制の拡充等を目玉としていましたが、足元の物価高の影響もあり大きな効果があったとはいえない状況です。そんな中、岸田政権では引き続き、「新しい資本主義」を掲げ、資産所得倍増やスタートアップ育成の実現に向けた税制改正大綱を公表しました。

 今回から3回にわたって令和5年度税制改正大綱のポイントをみていきたいと思います。

2.インボイス2割特例

 第1回目の今回は消費税と個人所得税の改正で注目すべきポイントをご紹介したいと思います。

 まずはインボイス制度についてです。いよいよ適用開始が今年の10月に迫っていますが、課税事業者を選択すべきか迷われている個人事業主や小規模事業者の方も多いのではないでしょうか。今回の改正案はインボイス制度の適用により、今まで免税業者であった事業者が課税事業者となることで消費税の納税負担が一気に増加することに配慮するものです。具体的には、確定申告時に2割特例を選択すれば、消費税納付額を売上高(厳密には課税標準額)に対する消費税額の2割とすることができるという経過措置です。あくまで経過措置であり、2026年9月30日の属する課税期間までとなります。ちなみに卸売業で小規模事業者である場合は簡易課税のみなし仕入れ率が90%であるため消費税負担は1割となり、2割特例よりも簡易課税制度を選択した方が有利となります。

 また、従前から課税事業者である場合にはこの特例は適用できない点にご留意ください。

3.新NISA変更点

 次に個人所得に関わる改正のご紹介です。

 今回の改正で注目を浴びたのがNISA制度の拡充です。日本証券業協会によればNISA口座は1,140万口座開設されており(2022年9月時点)、前年度に比して37.6%増加しています。今回の改正により新NISA制度として、抜本的拡充・恒久化が図られています。

 既存の制度では、成長投資を基本とする「一般NISA」とつみたて投資をする「つみたてNISA」の2種類があり、いずれかを選択する必要がありました。新NISA制度においては、「つみたて投資枠」と「成長投資枠」に名称が変わり、制限は設けられてはいますが、両方のNISAを利用することが可能です。年間投資上限額は合わせて360万円、生涯非課税限度額は1,800万円(内、成長投資枠の上限は1,200万円)と大幅に増額しました。そして、非課税期間や投資可能期間も無期限となっています。

現制度(~2023) 新制度(2024~)
名称 一般NISA つみたてNISA 成長投資枠 つみたて投資枠
併用 不可
非課税保有限度額 600万円 800万円 1,800万円 1,800万円
1,200万円(内数)
口座開設期間 5年間 20年間 恒久化
対象年齢 18歳以上 18歳以上

 なお、生涯非課税限度額は取得対価で管理されることから、売却をした場合はその金額について再投資することが可能です。そして既存のNISA制度(令和5年末)までに投資した商品については新NISA制度の生涯非課税限度額に含まないとしています。

4.相続税(暦年贈与と相続時精算課税)の改正

 続いて注目度の高い相続税をみていきたいと思います。相続にまつわる課税制度としては暦年贈与と相続時精算課税制度があります。今回はこの両制度に改正がありました。

 まず暦年贈与についてです。暦年贈与を簡単に説明すると、贈与税では暦年で110万円までの基礎控除があることを利用し、非課税となる110万円の範囲内で贈与を行う方法です。非課税で生前から財産を渡すことができるため、相続税対策として広く利用されています。既存の制度では相続開始前3年間の生前贈与については、遡って相続財産に加算されることになっています。つまり死亡前3年以内の暦年贈与については相続税の対象となってしまいます。今回の改正において、遡る期間が3年間から7年間に延長されました。加算期間は2027年1月以降、毎年1年ずつ延長され、2031年1月以後に開始される相続から加算期間が7年となります。ただし今回の改正で延長される相続開始前3年超7年以内に受けた贈与については4年間の合計で100万円の控除があります。

 相続時精算課税制度は、通常生前に財産の贈与を受けた場合に課される贈与税について、2,500万円までは課税されないという制度です。ただ、2,500万円まで全く税金がかからないというわけではなく、贈与された財産は相続時に相続財産と合算されて相続税が課税されます。今回の改正では、毎年110万円の控除が創設されます。つまり、相続時精算課税を選択し、1年につき110万円以内の贈与を受けた場合には贈与税はかからず、相続時の相続税対象財産からも除くことができます。

5.おわりに

 今回は令和5年税制改正大綱のうち、消費税と個人所得にかかわる部分を中心にポイントをご紹介しました。今回はインボイス制度や相続にかかわる内容で、身近な内容だったのではないでしょうか。相続税や贈与税は毎年のように改正があるので今後も注視していく必要があります。

 次回は法人税を中心に注目すべき点をご紹介したいと思います。

著者近影
執筆者
RSM汐留パートナーズ税理士法人
パートナー 税理士
長谷川 祐哉

埼玉大学経済学部卒業。2015年税理士登録。
上場企業やIPO準備会社に対して、連結納税支援、原価計算・管理会計導入支援、会計ソフト導入支援などの高度なコンサルティングサービスを提供している。国税三法と呼ばれる所得税、法人税、相続税の3つの税務に精通。

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